冬の寒空に、暗い海のさざめきがこだまする。

遠くの街の灯りだけが頼りの闇の中で、俺は半泣きになりながら冷たいアスファルトに蹲っていた。

革靴の尖った爪先で蹴られた腹が、痛すぎてうまく呼吸できない。

「桐生ちゃんもお前も、なんでそない嫌うかなぁ。ごっつう嫌そうな顔するねんて」

「…どうして、こんなことされなきゃ、ならないんですか?」

「あ?」

「俺が悪いことしたんなら、謝りますから…」

誰だって痛い思いなんかしたくないだろう。
暴力を回避するためならば土下座でもなんでもしてやる。
俺は桐生さんと違って、こいつと対等に渡り合う術を持ち合わせていないんだから。

「それや、そういうとこやねん」

「………は?」

「他人の顔色ばっかり伺って、気味悪い愛想笑いしながら腹の底にあるもん隠しとる。何にも悪いことしてないのに、なんで謝る必要なんかあるねん」

マジで不快やねんなぁと真島は嘆息した。まるで俺のどうしようもないわがままに呆れかえっているかのように。

知るかよ。こんなものごく一般的な処世術じゃないか。
そんなに不快なら視界に入れなきゃいいだろ、わざわざ関わってこなきゃいいだろうが、ばかやろう。

けれども意気地のない俺には、やっぱりそんなこと、口が裂けても言えないのである。

頭を蹴られる。腹を殴られる。
にやにや笑いながら腕をへし折られて、全身を金属バットで打ちつけられて、涙も鼻血も止まらない。

飢えた獣のようにぎらつく眼光に射竦められて、俺はただ暴力を甘んじて受け入れることしかできない。

凍てつく冬の寒さの中で、だんだんと痛覚が麻痺してきた。視界も朦朧として、ど畜生殺人鬼の狂気を孕んだ声だけが脳天を衝く。

「ええやんええやん!名前ちゃん、痛がっとる顔めっちゃええやん!ほんまもんって感じやで!ヒャハハハ!」

「…………………」

ドラマを始めとする創作物では、ここでヒーローが助けに駆けつけてくれたり、能力が覚醒して敵をやっつけたりするんだろうけど。

生憎と現実は非情なもので、このクソ寒い中埠頭なんぞに誰かが来ることもなければ、俺がこいつに対抗するべく奮起する可能性も皆無なのである。

俺は、ここで殺されるのだろう。




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