遥ちゃん、という少女の為に桐生さんがわざわざゲーセンで獲得した、気色の悪いキョン坊とやらの人形。どうもキョンシーとかいう妖怪?をモチーフにしているらしい。

俺には幼い子供が喜ぶような代物にはとても思えないのだが、というか大人だって貰って嬉しいものか甚だ疑問であるが、桐生さんがこれ以上なく自信ありげに突き出すものだからもう何も言えなくなる。

「最近学校で流行ってるらしくてな。若い奴はこういうのが好きなんだろ?」

「えっ…あ、どうなんですかねえ…」

「ぶっさいくやのぉ、近頃のガキはホンマにこんなもんで喜ぶんか?」

「なにっ…?」

空気の読めねえアホ殺人鬼のおかげで桐生さんの眉間の皺が一層深くなる。手にしたキョン坊をまじまじと見つめて、今にもバラバラに引き裂きそうな剣幕だ。
どうしてこいつは余計なことしかできないんだろう?

「かっ可愛いと思いますよ、その、血色悪そうなところとか…」

「嘘こけや。今のお前、桐生ちゃんのことめちゃ馬鹿にしたツラしとるで」

「ちょっと黙ってて下さいよ…!」

思わず殺人鬼の弁慶の泣きどころを、俺の安物スニーカーで蹴り飛ばしてしまった。

悶絶するアホをよそに、「そうか…」と項垂れる桐生さんを一生懸命フォローする。
ここで機嫌を損ねてしまい、店内で暴れられたりカツアゲされたり、とにかく俺が割りを食うのだけは御免だ。

「桐生さんが遥ちゃんの為に頑張って取ってきたことを伝えれば、絶対喜んでくれますよ!」

「…そうだろうか?」

「はい!そんなものに五千円も注ぎ込むなんてなっかなかできません!桐生さんすごい!」

「…フッ、そうか…すごいか」

よし、なんとか機嫌は直ったみたいだ。
よほどその少女を可愛がっているらしく、彼の厳つい顔つきがいつになく柔らかいものになっている。

俺は機宜を見誤らない。ここで一気に攻勢に転じる。

「この後遥ちゃんと会うなら、これ以上お時間をいただくわけにもいきませんし、俺はこの辺で失礼します」

「もう行くのか?」

「はい、その節は本当にありがとうございました。代金はここに置いていきますね」

五千円札をさりげなくテーブルに置き、あとは店を出て終わり。
終わる筈だったのに。

「待てやゴルアァ…」

「エ」

「ホンマ、ええ度胸しとるわぁ…ツラぁ覚えたからなあぁ…」

悍しくも地獄の底から這い上がってくるかのような呻きが狭い店内に轟くが早いか、俺は脱兎の如く駆け出したのだった。




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