…留守番電話は、10件 です。

『はよ出んかいボケェ!!親父がお呼びじゃゴラ!』

『しらばっくれてんじゃねえぞ!沈められてえのか!!』

『名前ちゃ〜ん、いい加減電話出んと、おうち行くで〜』

携帯電話を持つ手が、がたがたがたがた震えて止まらない。
体じゅうから嫌な汗がどばっと吹き出した。

やばいやばいやばい。これは絶対にやばい。
ヤクザって、カタギには迷惑かけないんじゃなかったの?あれも都市伝説の類いだったの?

こんな具合にがなりたてる留守録を、毎日死にそうになりながらいくつもいくつも消去していく。着実に神経が擦り減っていく中、ふと、つい先日までこんな物騒な連中とは無縁だったことを思い出した。泣いた。

録音の中には桐生の文字もあった。
大方彼から番号が漏れたのだろうが、音声を再生する気力も責めるつもりもない。

あの日のことは、桐生さんとの約束に勝手にくっついてきたあいつが悪いし、桐生さんに喧嘩を売りに行くあいつが悪いし、金属バットなんかを当たり前のように所持しているあいつが悪い。

でも流石に、自宅の住所までは割れていない筈だ。俺の仕事や最寄駅を口にした記憶も無い。
あの後すぐに電車に飛び乗って神室町を後にしたから、まかり間違って尾行されていた、なんてこともないだろう。

「ももももう、携帯、解約しないと…その前にちゃく、着信拒否…」

実のところ着信拒否は既に何回も行っているのだが、その度に番号を変えてくるのだ。
そこまでするほど恨まれるような行いをした覚えはないのだが、凄まじい執念だと思う。ヤクザって結構暇なのかな。

猟奇殺人鬼ヤクザに対抗し得る手段としては国家権力たる警察くらいのものだが、現状未だ実害に及んでいない以上まともにとりあってくれるかどうか。

「…ま、まあ相談するだけなら、タダだし…」

あれこれ考えたものの、至極庶民的な納得の仕方をした俺は、鉛のように重い足を引きずって交番へ向かった。




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