-まずはいちばん単純なところから考えてみましょう。率直にいって、スワンプマンは偽物、それとも本物だと思いますか?

「そりゃ、偽物でしょう。だって本物は落雷に撃たれて死んでるんですよね?」

-確かにそうですね、誰だってそう考えるでしょう。

名前さん―たまたま月見野のバーで居合わせただけの、名前以外なんにも知らないひと―は勝手知ったるかのごとく頷いている。

けして派手すぎず、しかし高級感の漂う身なりに柔らかな物腰。
今まで俺の周囲にいたどんな人間よりも育ちがよさそうで、それでいてどこか薄暗く無機質な印象を受ける。

俺は自分のバーボンソーダをちびちび舐めながら、この談議がどんなふうに展開してゆくのかなんてことよりも、彼の素性を考察してみる方がよほど楽しめそうだと思った。

-けれど、スワンプマンは姿形から頭の中まで死んだ男とまったく同じです。
何事もなかったかのように家族の待つ家に帰り、翌朝は会社に出勤する。
周りの誰も、彼が偽物だなんて疑いもしない。

「それはスワンプマンが、己が男自身であるという意識に則って行動しているからでしょう。自分が沼地から突然生まれたことも知らないだろうし」

-それなら君は、どういった観点からスワンプマンが偽物であることを証明しますか?
男の死体は死亡時に消滅してしまっているのですよ。

「…えっ、と……死体はなくて、同一のコピーであることに気づく人間もいなくて…」

-名前さんは何も答えず、仄暗い瞳の奥に静かな闇を湛えたままくすくすと嗤っている。
俺が返答に窮している様子が面白くてたまらないらしい。

「…ちょっと、わかりません。貴方ならどうやって証明してみせるんですか?」

-もう少し、ご自身でお考えになってみてください。

「そんなこと言われたって、だって、わかりませんもん」

子供のように不貞腐れた俺を見て穏やかに彼は微笑んだ。

-私はね、これを一種のゲームであると捉えていただきたいのです。

「ゲーム、ですか?」

-相手を言い負かした方が、勝ち。言い負かされたら、負け。どうですか?簡単でしょう。

「…そういうことなら。少しだけお付き合いしますよ。俺が勝ったら一杯奢って、あ、いや…」

うらぶれたバーで煽る酒よりも、よほど価値のあるものが目の前に転がっているじゃないか。

「…俺が勝ったら、貴方のこと、ひとつだけ教えてください」

名前さんは意表を突かれたように目を瞬かせて、それから、いいでしょうと頷いた。




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