例えば、小動物を踏み殺したり。
例えば、哀れな吟遊詩人を惨殺したり。
例えば、初めて笑顔を目にしたのが、敵を蹂躙し尽くしたあとだったり。
ドラゴンボーンであるが故に表情こそ読みにくいものの、彼が命を奪うという行為に最上の愉悦を感じていることは明白だった。
彼の手から繰り出される魔法の数々は、時に周囲を火の海で包み、時に氷の雨を降らせ、時に無数の矢で肉を貫く。
殺しのためだけに磨き上げられ、洗練されたそれらに夢中になるのに、そう時間はかからなかった。
昂る気持ちをそのままに、酔いに任せて彼を誘ったいつかの晩、鼻で笑われたことは今思い出しても癪に触るが。
旅を始めたばかりの頃から、なまえにどうしようもなく惹きつけられていたのだろう。
やがて殺戮の神の寵児であることが明らかになった彼は、その残虐性を隠そうともしなくなってゆく。
大抵はオーリンに従うべハル信徒が犠牲になるのだが、善人だろうが悪人だろうが彼には最早どうでもいいようで、次第に女子供であっても容赦なく手にかけるようになった。
そして芸術性すら孕みながら一分の無駄もなく遂行された殺害は、彼の「御父上」へ献上される。
あくまで彼自身は、いずれ果たされるべハル顕現のための器に過ぎず、彼の全てがべハルのもの。
肉体も精神も命ですら、ひとたび命じられれば喜んでくれてやるのだろう。
どうあがいても、彼は俺のものになってはくれない。
その覆しようのない事実が、たまらなく不愉快だった。
☠︎
その日は、べハル寺院の場所を特定するための情報収集を行っていた。
リヴィントンへ到着してからこのかた、幾度となく煽ってきたオーリンに対していい加減嫌気がさしたのか、はたまた古巣へ戻りたい一心か、彼は取り憑かれたように件の連続殺人事件を追っていたのである。
死体を辿るという実に単純な行動指針に最初こそ首を傾げたものの、殺しにかけてはべハルの子に従うが吉だったらしく、彼が先導する先々で儀式殺人の形跡と憐れなピエロの一部が見つかった。
「今度は骨盤か。重いからレイゼルにでも持たせたらどうだ」
ぎろ、と睨まれる。そういえば、彼女は既に頭部や胴体の詰まった袋を抱えていたんだった。
「たまにはお前が運んではどう?その貧弱な肉体が少しは鍛えられるかもしれないわ」
失礼な宇宙人だ。かつては俺のこの身体に魅せられて全てを捧げた人間も少なくないというのに。
文句を言ってやろうと口を開くも彼に制止される。周辺を調査するから静かにしていろということらしい。
「はいはい、ご自由に…」
元来口数の少ない男だが、父君のことを軽々しく口にしたくはないのか、べハルのことが絡むと殊更無愛想になるのである。
一方で瞳は爛々と輝き、散らばった内臓や血飛沫をものともせず熱心に検めはじめた。
一度こうなってしまったからには、彼を邪魔するのは賢明ではない。
俺は血生臭いここからさっさと離れられるように、なまえの検分が長丁場にならないことを祈るばかりだった。
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