・ゲーム版の要素
未来予知の、という大層な形容詞をつけられる男がいる。
第104期南方訓練兵団のなまえと聞けば、関わりのある者ならばあああいつねと首を振って、見てくれなんかはごく普通なんだけどねえなどと或いは嫉妬をこめて続ける。
長身大柄な体躯を持つでもなく、取り立てて美しいわけでもなく、強いて言うなら黒髪が少し伸びているくらいしか特徴の無い彼は、それでもちょっとした有名人であった。
抜き打ち試験の日程や一週間後の訓練内容、果ては嫌いな上官のあられもない弱点まで網羅しており、座学はもとい訓練成績も優秀、稀代の天才と謳われたミカサ・アッカーマンと肩を並べるほど。
教官方の評価では既に巨人との実戦を経験しているのではと首をかしげる者もいた。
そのからくりは単純と言えば単純だが、彼にとってはとてつもなく迷惑千万な現象であるため、昨今のなまえは極力他人と関わることを避けていた。というのも、それが単なる繰り返し、に過ぎないからだ。
シガンシナ区で生まれ、超大型巨人の出現と共に両親を失い、食い扶持に困った挙句訓練兵団に入り、エレンがどうたら女型がこうたらなんやかんや…
この一連の流れを、壁の破壊を起点として何度も何度も何度も何度も経験しているのである。
同じ授業同じ訓練を繰り返せば当然成績も上がり、初めこそ中の中程度であったはずがいつの間にか首席に。
一度目の初陣を飾ったトロスト区の実戦では呆気なく踏み潰されて死んだが、十一度目ともなると率先して討伐数を稼いだ。
目の前で親しい人間が食われる怒りも悔恨も悲哀も、己が食い千切られる苦痛も恐怖も絶望も。
死ぬはずだった誰かを助けられたこともあれば、死ぬはずではなかった誰かを死なせてしまったこともある。
ただ一つだけ、数多の繰り返しで共通していることは、巨人に殺されるという点のみであった。
ところどころ乾いた血が貼りついた頁をめくる。
過去の俺が記してきた手帳。現在の俺が生き残るための唯一の手がかり。
いつ、どこで、何が起きるか、誰がどんな風に死ぬか、どうやって、俺が死ぬか。
思い出せうる限りのことを事細かく記して、そうやって俺はなんとか生き延びてきた。いや、生きている時間をできるだけ長くしてきたと言うべきか。
不思議な手帳だ。なんの変哲もない革張りのこれは、決まって入団式後の俺のポケットに捻じ込まれている。ご丁寧に前回新しく判明した事実を書き加え、過去の誤った情報を修正して。
初めは愕然とした友人が捕食される光景は最早うんざりするほど目にしたし、初めは感銘を受けた演説も今となっては右から左へ聞き流すばかりだ。
もうこんなことは終わりしたい、叶うものなら二度と目覚めたくないと願いながら眠りにつくが、結局俺は今日も訓練に精を出している。
何回同じことを繰り返せば気が済むんだと、世界に少しだけ絶望しながら。
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