死に物狂いだった。
やっとの思いで勝ち取った内地行きの切符。
これでもう、俺と父さんが巨人の恐怖に怯えることはない。
ウォール・マリアが破壊された時に母さんは死んだ。
父さんは今日まで男手ひとつで俺を育ててくれた、不器用で意地っ張りだけど、たったひとりの大切な家族だったんだ。
俺は過酷な訓練兵時代に良い成績を修めて、あのトロスト区での実戦だって生き延びた。
生きて帰った時、父さんは涙を流して喜んでくれたっけ…とにかく、全部ぜんぶ、憲兵団に入って内地に住むためだけに努力してきたんだ。
配属先希望の書類の、家族を内地に移住させる旨のところに真っ先に丸をつけた。
やっと親孝行できる、父さんを楽にしてやれるって思ったのに。
こんなの、あんまりだろ。
「…と、父さん…?」
女型が踏み抜いていった建物の下、瓦礫から夥しい血と誰かの腕が伸びている。
誰かなんて認めたくないけど。
足ががくがく震えて、立てなくなって膝をつく。頭を殴られたみたいに視界がぐらついて、だけど伸びた腕に嵌っている指輪は見間違えるはずがない。
父さんと母さんの結婚指輪だ。
例えば目の前で同期が巨人に食われても、正直心のどこかではどうでもいいような気がしていた。
或いは母さんは死んでしまったけれど、まだ俺には父さんがいるから大丈夫だと思っていた。
「父さんが…父さんが…」
「なまえ!気持ちはわかるが、今は避難民の誘導を…!」
誰を避難させるっていうんだ。
俺が一番守りたかった家族は、目の前で死んでいるのに。
どうしていきなり内地に巨人が現れたんだ。誰のせいでこんなことになったんだ。誰が、誰が、誰が…
「調査兵団…」
頭上をたくさんの怒号と人間が飛び交っている。その多くは調査兵ばかりだ。
憲兵団の混乱ぶりを見るに、今回のこれは奴らの独断で遂行されたのだろう。
巨人から人類を守るだの領土を奪還するだの、ご大層な大義名分を掲げるだけ掲げてタダ飯を食らい、あげく巨人の餌になるしか能の無いバカ共。
おおかた一人の命で百人の命を救えるなら、犠牲を出しても許されると思ってるんだろう。それで許されたつもりになっているだけの、ドブネズミ共。
クソみたいな自己満足で無関係な人間を大勢巻きこんでおいて、俺から父さんを奪っておいて、はあ?女型確保?あっそう、どうでもいい…何もかもがどうでもいい。
やめろ、やめてくれよ。死ぬなら、お前らだけで死んでくれ。
そいつの首は驚愕した顔のまま転がっていき、溝に落ちて見えなくなった。下手くそな手品みたいだな、と思った。
硬質ブレードって凄いなあ、首の骨までスッパリ切れてら。
ああ、許さない。絶対に許さない。
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