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レオの探偵パロ
2025/11/04 20:00

「助手!クイーンメアリ号って興味ある?」

 マホガニーのアンティークデスクにダラリと覆いかぶさりながら、突如月永先生が呟いた。

 クイーンメアリ号とは、巴財団が所有する豪華客船のことで、庶民中の庶民である私でも名前くらいは聞いたことのある大きな客船だ。そんなもの、この電気代の支払いさえギリギリの貧乏探偵事務所で助手として働く私は勿論の事、その一国の主である探偵月永レオ先生にも縁はないものである。なのに突然彼はその名前を宣って「面倒なんだけどな〜」とうだうだ文句を言っている。

「え、どうしたんですか急に…興味はとってもあります」
「やっぱり女の子ってああいうの憧れるのか?」
「そりゃあ…人生一度乗れたら幸せですよね」
「えぇ〜…じゃあ断れないじゃん…」

 何がですか、と聞こうとしたら、彼は机の端に置いてあった洋封筒をひらひらと振った。私は手にしていたファイルを棚に戻し、その封筒を受け取って中を見る。

 中には招待状が入っていた。差出人は巴日和。受取人は月永レオ先生。
 そう、クイーンメアリ号への乗船招待状が入っていたのである。

「え、えぇ〜!!これ、クイーンメアリ号の招待状じゃないですか!!どうしたんですか!?」
「どうしたもこうしたもその巴日和から送られてきたに決まってるだろ…」
「な、なんで!!」
「なんでって…多分お義理。依頼料のおまけみたいなもん」
「えっ?!なに?!どういう意味ですか?!」

 私の記憶が正しければ、巴財団の人からの依頼なんて一度も受けたことがないはずである。それとも私が知らない間に個人的に何かお世話でもしたのだろうか。

「まぁいいじゃん。じゃあおまえも連れてってあげるから、3日後な。ディナーあるからちゃんとフォーマルな服持ってこいよ」
「うそ〜!!やったぁ!!」
「ちなみに公休扱いだから」
「え〜…」

 月永先生だって行くんだからいっそ勤務日ってことにしてくれればいいのに。なんて、豪華客船に乗せてもらえることになったのにちょっと図々しく思いながらも、私はクローゼットの中にあるフォーマルなドレスを思い浮かべた。

「…先生」
「なに?」
「豪華客船のディナーって、友人の結婚式程度のフォーマルじゃまずいですか…?」
「大丈夫だろ」
「…先生ってフォーマルなスーツ持ってるんですか?」

 基本月永先生は事務所内ではパーカーにデニムとか、シワの入ったシャツとか結構くたびれた格好をしてるので、そんなフォーマルな姿を見たことがない。

「失礼だな!スーツ着る機会結構多いんだぞこれでも」
「えっそうなんですか?どこで?」
「…ないしょ」
「?」

 休みの日に婚活でもしているのだろうか。なんて思ったけど私はかぶりを振る。確かに仕事は空っ風だけど、月永先生の美貌なら婚活なんて必要なさそうだ。

 あと個人的に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ困る。

「とにかく3日後の14時に港集合な!」
「いえ、ここで待ち合わせましょう。先生現地集合すると見つからない可能性ありますから」

 月永先生と現地集合した所で、待ち合わせ場所に真面目に行く方がバカを見る。基本彼はこの事務所以外、同じ場所に留まっておくのが苦手なのだ。
 とにかく3日後までにドレスの状態を確認して、美容院も行っちゃおう。なんて思いながら、私はその日も閑古鳥な事務所内でコツコツ仕事をこなしたのだった。


 3日後。キャリーケースを転がして待ち合わせ場所の事務所を経由して、二人で港へと行った。

「うわぁ、うわぁ!本当にクイーンメアリ号だ!テレビで見た!」
「こら助手はしゃぐな恥ずかしいぞ。お上りさん丸出しだ」
「だってお上りさんみたいなものですもん!すご〜い!」
「…まぁいいや。早く行こ。おれ一応巴日和に挨拶しなきゃ」

 同行者枠まで用意してくれたんだからおまえも行くぞ。と言われたので、潮風で暴れる髪を押さえながら返事をした。乗船場で先生が招待状を見せて、入船する。中は高級ホテルのロビーみたいになっていて、船の中だとは思えないラグジュアリーぶりだ。

「あれ…月ぴ〜だ。おい〜っす…」

 すると背後から気怠そうな声が聞こえた。二人して振り返ると、黒髪に赤い瞳の綺麗な顔の男の人がひらひらと手を振っていた。だらしなくキャリーケースを引きずっている。

「あれっ!リッツ!リッツリッツリッツ!なんでここにいるんだ?!」
「いや、俺のセリフなんだけど〜?俺は兄者の名代で嫌々来ただけ〜…」
「わははっ!レイ相変わらず忙しいんだなっ」
「まぁもしかしたら飛び入りで演奏するかもしれないし、兄者より俺の方が適役かもね〜。月ぴ〜の曲も一応楽譜持って…あれ?あの子は?」

 赤い瞳が眠たそうに私を見た。私は慌ててお辞儀をする。

「は、はじめまして!月永先生の助手しております!」

 こういう者です!と名刺を渡すと、その人は「はい俺も〜」とポケットから無造作に出した名刺をくれた。

「あっ!ど、どこかで見た事あると思ったら!ピアニストの朔間凛月さん!先生、こんな方とお知り合いだったんですか!」
「うん。リッツは学校同じだったから」

 相変わらず先生の人脈には舌を巻く。この人脈のおかげであの事務所は持っているようなものなのだろう。

「へぇ、月ぴ〜助手なんて雇ってるんだ。なんかいいね」
「でもこいつちょこちょこ口うるさいぞ。ちょっとセナみたい」
「なっ!先生を思って言ってるんじゃないですか!」

 また出てきた謎の「セナ」なる人物。もしや先生の恋人だろうかと思ったけど、最近はお母さんなのではないか説が私の中で最有力である。

「ふぅん。まぁいいや。助手ちゃんよろしくね…」
「はい。よろしくお願いします!」 

 後でね〜。とひらひら手を振って、朔間凛月さんは去っていった。

「テレビで見たことあるけど本当に綺麗な人〜…」
「あっ!余所見するな!リッツはいい男だけど!いい男だからダメっ!」
「なんですか急に…」

 突然そんな事言われても困る。

 客船内で用意された部屋に荷物を置いて、早速巴氏に挨拶に行くというので私もついて行くことにした。まだドレスは着てないけれど、普段着の中でも小綺麗な服を着てきてよかった。

「先生…ご挨拶に行くのにパーカーでいいんですか…」
「べつに神に会いに行くわけでもないし、いいだろ」
「出た。先生節」

 たまに壮大な例え話をしだすので、私はそれをスルーして案内された部屋へと通してもらう。その辺にいたコンシェルジュのような人に「月永レオだけど」と言っただけで巴氏の元にアッサリ通されるなんて、そんなに先生って偉い人なのかしら、なんて失礼な事を思ってしまう。

「失礼します」
「あっいたっ!ヒヨ!招待してくれてありがとう!」
「せ、先生!!失礼ですよ!」
「月永くんだね!いつも通り無礼だねこんにちは!」
「こんにちは!」

 最上級の部屋の応接セットに座っていた巴氏は、一応、と言った感じで立ち上がると月永先生と握手をした。本当に一応、という感じで。

「うんうん!でも今回のディナーの時に行うピアノリサイタルはきみの功績でもあるからね!今回だけはその無礼を許してあげるね!」
「……?」

 先生の功績?一体何をしたんだろう。ピアニストさんの身辺調査でもしたのだろうか。

「あ、こいつおれの助手。今回は同行者まで許してくれてありがとう」
「初めまして。このたびはご招待ありがとうございます…」

 私こういう者です。とまた名刺を渡せば巴氏は「あれっ月永くん探偵事務所なんてやってるの?」と謎の質問をしていた。

「おれの本職探偵だもん。よろしくな」
「え?あっちは副業なの?効率が悪いね!悪い日和!」
「おれは好きなことやるの!」

 とりあえずお礼言いに来ただけだから!と言うとさっさと引き上げようとしている先生を後目に、私は巴氏に再度頭を下げて部屋を辞した。

「先生…ちょっと失礼が過ぎますよ。ていうか副業ってなんですか?」

 何か副業をやっていたなんて聞いたことなかった。

「まぁちょっとした小遣い稼ぎ。おまえの給料払えてるんだからいいだろ」
「まぁ…そうですね」

 なるほど。今回は探偵としてではなくその副業で巴家と懇意になっていたのか。と一つ目の謎が解決した事に納得したので、深く追求するのはやめた。こう見えて月永先生は謎だらけの人物なのである。

「ディナーまでちょっとのんびりしよ。部屋の前で集合な」

と言われたので先生とは一旦解散して、私はディナーの時間を確認してから部屋の中やラウンジを見て回ったり、ドレスアップを準備をしたのだった。


「うわ、先生かっこいい…どうしたんですか」

 約束の時間に部屋を出れば月永先生は既に廊下に出ていた。髪の毛まできちっとセットした先生に、思わず本音がこぼれてしまう。中身はちゃらんぽらんだけど、顔は本当に上品で綺麗なのだ。

「だって挨拶させられる気がしてきたから…おまえもあれだな。かわいいぞ」
「えっやだ本当ですか?頑張ってよかった〜」

 大きなメイクポーチと家にある一番高いドレス持ってきて良かった。と思いながら、照れ隠しにピアスをいじる。

「うん。いつも事務所でその格好でいられたら困るくらいにはかわいい」
「…こんな格好した助手がいる探偵事務所やばいでしょ」

 月永先生は本当に綺麗でモテそうなのに、相変わらず女の子の褒め方が絶妙に下手くそである。

「は〜お腹すいた〜お料理楽しみ!ワインとかきっといいもの出るんだろうな〜」
「飲みすぎるなよ」
「わかってますよ」

 ディナーの時に有名な女性ピアニストのリサイタルがあるらしくて、私は高いヒールで赤い絨毯を軽やかに踏みながら、その時を楽しみに待ったのだった。


 後に、そのピアニストが殺される事も知らないで。




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