TOP > 更新履歴 > 記事 泉を電話で励ます 2025/11/04 20:05 日曜日の真昼間、今はフィレンツェでお仕事をしている泉くんからメッセージが届いた。海を越えて電波越しに届いたのは一枚の画像のようで、私はそれを開く。 「うわぁ…!」 画像は泉くんだった。白い背景に彼が華奢なブレスレットを付けた一枚の写真。綺麗な水色の瞳がすごく深い印象を与えるその写真に私は思わず歓声を上げた。ややアップな分、泉くんの顔の造形の美しさがより際立つ。自分の恋人であることが信じられないくらい、本当に綺麗である。思わずその写真に見惚れていると、少ししてからメッセージが届いた。 『今大丈夫?通話してもいい?』 私は一旦時計を見る。日本が真昼間ということは向こうは明け方だろう。私に合わせてそんな時間に連絡をくれたのだろうかと怖じ気付いたが、彼からの希望だ。私は迷わず自分から通話アプリで彼を呼びだした。 「…もしもし?」 「泉くん?おはようだよね、そっち」 「うん。明け方」 「大丈夫?こっちに合わせてくれたの?」 異国でちゃんと眠れているか心配になって、私は不安げな声を電話に通す。すると泉くんが小さく笑ったのが聞こえた。 「これから仕事だから早起きしただけ。ねぇ、さっき送ったスナップ見てくれた?」 「見たよ。ものすごく綺麗」 正直な感想を言うと、泉くんが少し照れたようにお礼を呟いた後「当然だよねぇ」といつもの調子で言った。 「…それね、こっちの小さなジュエリーメーカーの広告になるの」 どうやらそのメーカーは日本での取り扱いがないものらしく、他の人に見せないのを条件にわざわざ私に送ってくれたのだという。今日はパンフレット用の写真を撮ると言う。メンズのジュエリーメーカーらしいけれどデザインは中性的なものも多い分、海外の人から見たら童顔に映る泉くんが採用されたと、彼にしてはずいぶん控えめな話までしてくれた。 「そうなんだ。すっごい綺麗だよ。ジュエリーに負けてない」 「ありがと…」 見せてくれた写真は、泉くんの澄んだ瞳が特に印象的だ。本当に、宝石なんかよりもずっとずっと綺麗である。 「小さい仕事ではあるんだけどさ、この写真は俺も気に入ったから…あんたに見て欲しくて」 「見られてよかった。日本でも取り扱いあればいいのにね」 そしたら日本のファンも泉くんのこの綺麗な写真を見ることが出来るのに。なんて思いつつも、日本でこの写真を見られる人はすごく少ないんだと思うとちょっぴり優越感や独占欲のようなものも湧いてきてしまう。 「…あのさ、ちょっと一つ質問していい…?」 すると、泉くんが小さな声で唐突に切り出した。私は彼には見えないのに何度もうなずきなから「もちろん。なぁに?」と返事をする。 「……あの、もしちょっとダサい事言っても、許してくれる…?」 「どんな泉くんも大好きだし、大丈夫。どうしたの?」 少し言い聞かせるように優しく言った。今は月永さんも日本に帰ってきているというので、泉くんは一人だ。弱音だって吐きたくなるはずである。 「俺さ、俺…がんばってる、よね……」 私は一瞬でぶわ、と泣きそうになった。こんなに綺麗な写真を撮ってもらってこんなに頑張りが伝わってくるのに、彼にとっては手探りで不安な毎日なのだ。 そんな言葉がなくても十分伝わってきているのに。そう思うとじわじわ涙が滲んできたが、泉くんを心配させてもいけない。元気づけてあげなくては、と思ってなるべく声を弾ませて言った。 「あの写真見れば、言葉がなくてもわかるよ!泉くんは泉くんが思っている以上にがんばってる。…身体だけは大事にしてね。日本に帰ってくる時は教えてよ」 泣きそうになりながらなんとかそう言えば、彼が小さな声で「ありがと…」と呟いた。きっとちゃんと伝わったのだろうと、私もほっと胸をなで下ろす。 「来月はKnightsの仕事もあるし、久しぶりにそっちに帰れそう。また、連絡するから」 「うん待ってる。いつでも連絡してね」 そういえば彼のいる国はまだ明け方だった。長話もいけないと思い「じゃあね」と話をまとめようとした所で、泉くんが小さく笑って言った。 「あ〜ぁ。一番かっこいい所見せたい子に一番かっこ悪い所見せてる。…ちょ〜うざぁい」 「いいのいいの。かっこいい所はファンの子だって見てるじゃん」 私にはかっこ悪い所も見せて欲しい。と言うと、泉くんは数秒黙り込んでから「ばか」と言って電話を切ってしまった。 怒ったわけではないはずだ。私の応援が今日の彼の気持ちを前向きに動かしていますように。と願いながら、私は先ほど送られてきた彼の写真をもう一度見つめたのだった。 [prev][next] [Back] |