TOP > 更新履歴 > 記事

夏目と魔法
2025/11/04 20:06

「あれ、いつの間に髪切ったノ?」
「あ、昨日切った」
「ヘぇ。君にしては結構思い切ったネ。似合ってるヨ」
「ありがとう」

 夏目くんはすごい。私の小さな変化をまず見逃さない上に、褒めるのが上手である。髪を切ったのには確実に気がついて、絶対に褒めてくれる。女の子は髪を切った事を褒められるのが嬉しい事も、ちゃんと知っているのだ。

「ピアスも新しいのでしょ。初めて見たけド」
「うわ、すごいね。これも昨日買ったの。なんで気がついたの?」
「ボクは魔法使いだかラ」

 そう言って私の耳で揺れるピアスをそっと指で弄んだ。たまに耳たぶに触れる彼の指がくすぐったい。

「な、夏目くんのその魔法、いいな。私あんまりそういうの気が付けないから」

 恐らくわざと耳たぶを微かに触るようにしてピアスに触れている彼の興味を逸らすために、私はそんなことを口にした。私の意思に反して赤くなる耳が恥ずかしいからだ。

「ふぅん。いいヨ。じゃあほんの少しだけ君に魔法の手解きをしようカ」

 夏目くんはテーブル越しに頬杖をつき、にこりと微笑んだ。

「実はボクもこの前会った時に比べて変化があるんダ。それがなんだか当ててみテ」
「えっ」
「まずはそこからだヨ。この試験にクリアしたら手解きをしてあげル」

 それが出来ないからコツを教えて欲しかったのに…と思いつつ、私は夏目くんの顔をじっと見た。前髪の長さや髪型は変わらない。夏目くんは化粧をしているわけでもないので、まずその辺は除外だ。眉毛を整えた?いや、いつもと同じな気がする。カラーコンタクトを入れてる事もない。
透明なコンタクトでも入れているのだろうか。と思い、彼の瞳をじっと見る。するとパチン、とウインクをされた。

「うわっ」
「うわって何。失礼だナ」
「いや、こんなに近くでそんな…誘惑はやめてください」
「あはは、バレちゃった」

 本当に誘惑していたのなら困り物だ。私は彼の誘惑にとても弱いのである。現に間近でウインクなんてされて、顔が熱い。
コンタクトはしてないヨ。と彼が言うので、他に何か変わった箇所を探す。肌が綺麗だ。毛穴が無い。猫のような目がかわいい。

「はい、時間切れ。どうだっタ?」
「顔が綺麗です…」
「不正解だヨ」
「答え合わせして」
「うーん、また今度ネ」

 なんだそれは。と思わず抗議したくなったが、今日は夏目くんの誕生日である。彼が楽しいのならまぁいいか。と話を流すことにした。
 いや、と私はここで思考の方向性を変える。今から実行しようとする事はとてつもなく恥ずかしいけれど、彼が喜びつつ、一泡吹かせられるかもしれない策を思いついたのだ。

「ね、ねね、ねぇ夏目くん」
「?急にどうしたノ?」
「私も実はその魔法、今日だけ使えるかもしれない。いつもとどこか違うの。当ててみて」
「ん?そうだネ…。髪型、ピアス。洋服も見た事あるネ。化粧品までは詳しく分からないナ」
「どれも不正解」

 夏目くんは暫く悩みながら私をぐるりと見回して、ため息を吐くように肩をすくめた。

「今日はボクも調子が悪いのかナ。潔く諦めるヨ」
「分からない?」
「うん。答え合わせはしてくれるノ?」

 いいよ。と呟くと、私はそっと席を立ち、夏目くんの隣に来て、「耳貸して。」と彼に言えば、素直に従ってくれた。
 さぁ言うぞ。一年に一回。誕生日おめでとう夏目くん。という思いを込めて、えいやっとばかりに囁いた。

「今日……いつもよりちょっとだけえっちな下着を持ってきています…」
「?!」

 私の顔も真っ赤だろうけれど、それ以上に真っ赤になった夏目くんは目線を揺らしてから、一度時計を見て、普段絶対に見られないくらい焦ったような表情で私の両腕を掴んだ。そのまま押し倒す気なのか、ぐい、と彼の体温が近くなる。

「ま、まだ夕方だけド…」

 いいよネ?って言い出した。よくない。ここまで効果があるなんて聞いていない。

「い、いやまって持ってきたって言ったじゃん。まだ普通の下着だから。むしろ結構適当だから…」

 夏目くんて余裕が無くなるとこうなるのか。と、一周回って冷静になりそうなくらい狼狽している彼を見ていると、無性にときめいてきた。これからもこうやって意外な姿を見せて欲しい。なんて思う。

 結局下着のお披露目はなんとか出来たものの夕飯は大分遅い時間だったし、ケーキは次の日に食べた。少し水分を含んだケーキを食べながらおめでとう。と掠れた声で祝えば、ご機嫌な様子の夏目くんは「素敵なプレゼントありがとウ」と言う。折角買ってきた真面目なプレゼントを渡すタイミングを、私はすっかり失ってしまったのだった。



[prev][next]
[Back]

Copyright (C) 2016 PB All Rights Reserved.