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ジュンと初めてのバレンタイン
2025/11/04 20:07

 夜になるけどバレンタイン当日に会える、というジュンくんが家に来てくれたのは、既に日も変わりそうな時間だった。次の日はオフだというので私はホッと胸を撫で下ろしながら、人心地着いた彼に準備していたチョコレートを渡したのである。

「はいジュンくんハッピーバレンタイン!」
「わ、ありがとうございます」

 恐らく色んなところでバレンタイン関連の仕事をしてきたであろう彼にまたチョコレートをあげるのは酷だろうか。とも考えたが、付き合って初めてのバレンタインだ。バレンタインといえばチョコレートという安直な考えの元、私はデパートのバレンタインチョコ売り場で押し合いへし合いしながらなんとかチョコレートを手に入れてきた言わば戦利品を彼に渡したのである。

 しかし彼は珍しくぼうっとした様子で、目の前の黒い箱に紺色のリボンが掛かった箱を見つめていた。

「ん?あれ?もしかしてチョコ苦手?なんとなく甘いの嫌いそうだからカカオの比率が高いやつにしたんだけど…」
「あ、いや、なんでもね〜っす…」

 歯切れの悪いジュンくんに、私は内心で首を傾げる。まだ彼がどんな食べ物が好きか把握しきれてないので、しくじっただろうかと少しばかり不安になりながら、来年の参考に思い切って聞いてみた。

「ねぇジュンくんもしかしてチョコレート自体が嫌い、とかだったりする…?」
「そ、そんな事ねぇっすよ。甘いの結構好きだし」
「えっ!そうなの?」
「はい、まぁ…」

 私があまりにも意外、といったリアクションをしたせいかジュンくんは照れたように下を向いてしまった。いけない。私はさりげなく彼の好物を聞くことにする。ここからは今年の反省と来年に向けたリサーチである。

「甘いのって、どの程度?ケーキとかパフェとかも好き?」
「あ、パフェ好きっすよ。苺好きなんで、この時期のパフェは苺乗ってるものが多くて嬉しいっす」
「な、なんだって…!?」

 見た感じこんなに『好きな食べ物はラーメンか牛丼、週一で食ってます』みたいな顔しているのに、好きな食べ物が苺…?!私より可愛いではないか、と思わず目を剥いてしまう。

「え、ダメっすか…?」
「ううん超可愛くてビックリした…オッケー来年は苺使ったチョコ買うね」

私が食い気味にそう言うと、ジュンくんが少し目線を私から外して恥ずかしそうに口を開いた。

「あの…リクエストしていいっすか?」
「え?うん勿論」

 既に今年のチョコは放り出して来年の話をする自分たちがなんだかおかしいが、彼の事をもっと知れるのならどんと来いである。私は前のめりに彼の話を聞く。するとやはりジュンくんは少しだけ顔を赤くしながら呟くように言った。

「来年でいいんで…出来れば手作りくれると、嬉しいっす。あの、難しいのじゃなくて簡単なのでいいんで…」
「!!」
「憧れ…なんすよね。彼女から手作りのチョコもらうのって…」

 思わず叫び出したくなって、私は喉に思い切り力を入れた。もしかしてさっきぼうっとチョコの箱を見ていたのは私から手作りがもらえる事を期待していたのだろうか。彼女からは手作りがもらえる、という方程式でもあったのだろうか。かなり初々しい、というか夢見がちな思考だが私もなかなかに盲目なので何故こんなに可愛い事を言うのだと、クラリと目を回しそうになる。

 手作りを強要する男の人ってもっと面倒だと思ったのに、こんな事を言われたらもう来年のバレンタインに向けて今から特訓したいレベルである。
 彼氏があまりにも可愛い。下手しなくても私より可愛い。

「わ、わかった。ごめんね今年は既製品で…しかも甘いのじゃないし…的から大外れだったよ」

 手作りを嫌がる人もいるかと思って保守的な考えになってしまったのがそもそもの間違いだったようだ。付き合いたてとはいえ反省する私をよそに、ジュンくんはひらひらと手を振った。

「あっ、違う違う。くれた事が既に嬉しいし当日に会えたのも嬉しいし。あと次の日がオフだから長く一緒にいれるのも嬉しいっす。すんませんワガママ言っちまって」
「そんな事ない。ジュンくんの事もっと知れて私も嬉しいよ。今度苺のスイーツ買って待ってるね」

 そう言うとジュンくんはやっぱり少し照れたような顔で「ありがとう」なんて言うので、私は来年のバレンタインも待たずにその内苺のショートケーキをホールで作ろうか。なんて規格外な事を思考の端でうっかり考えていた。


「じゃあ…あんたの好きな食べ物ってなんすか?」
「ん、私?餃子。ニンニクいっぱいだと嬉しいよね」
「……超かっけ〜っすね」
「美味しいよね餃子」
「まぁ、オレも好きですよ」

 ここで恋愛偏差値の低い私は彼がホワイトデーのリサーチをしていた事に全くもって気がつかなかったのである。

 




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