TOP > 更新履歴 > 記事 一彩とパンケーキを食べる 2025/11/04 20:09 「…で、結局それはパンなのか?それともケーキなのかな?」 「パンでありケーキでもあるからパンケーキっていうんじゃない?」 「納得がいかないよ。パンとケーキは全然違うものって藍良も言っていたよ」 「それはそうなんだけど…これから食べに行くから身をもって実感すればいいよ」 彼である一彩くんに何気なく「パンケーキ食べにいかない?」と言ったら、この有様である。私はただふわっふわのパンケーキを彼にも食べてもらって、幸せそうな顔を見たかっただけなのに、何故か一彩くんはパンケーキの名前の由来が酷く気になっているようだった。なんとなく、藍良くんの苦労がわかる。 「そうだね。自分の目で見た方が納得が行く。楽しみだよ」 「ていうか普通〜に美味しいからパンケーキ…一彩くんも気に入ってくれると思う」 「君がそう言うのならきっととても美味しいんだろうね。都会は本当に不思議な食べ物でいっぱいだ」 パンケーキくらい都会に行かなくても食べられるのでは?という疑問は、一彩くんの前では無価値だ。私は彼の言葉をサクサク聞き流すと、最近見つけた穴場のカフェへと足を向けた。行列はできないのに、ふわふわのスフレ系パンケーキが本当に美味しい店なのである。出来ればずっとあまり人に知られずにいておいて欲しいお店なのだ。 カフェタイムから少しずれた時間に入店すれば、待たずに席に通してもらえた。パンケーキを2人前、それからコーヒーと紅茶をそれぞれ頼んで、あとは待つだけである。 「ここね、すごく穴場なの。今度よかったら藍良くんとも来てみれば?」 「そうだね。藍良は甘いものが好きだし、ESビルからも離れていないからすぐに連れてこられそうだ」 「SNSにスイーツとよく写ってる藍良くん見かけるから。甘いもの好きなんだろうなって思ってたけどやっぱりそうなんだ」 「そうだね。藍良は甘いもの好きみたいだ。よくESの食堂でもパフェが食べたいと言っているしね」 「へぇ…!」 一彩くん越しに藍良くんの話を聞くと、なんとなく新鮮だ。 「君も甘いものは好き?」 「私?うん、好き。特にパンケーキ好きでよく友達とあちこちに食べに行くんだ」 「そうか」 あれ?と、私は違和感を覚える。なんとなくだが、一彩くんの機嫌が少し斜めになったような気がするのだ。 「あ〜、えっと、一彩くんも甘いもの、苦手じゃないよね」 「うん」 「じゃあ、じゃあさ。今後私が気になるお店見つけたら、その〜、一彩くんも付いてきてくれる?」 そう言うと、彼はパッと顔色を明るくした。 「ウム!勿論だよ!」 「えへへ、ありがとう」 私は気がついてしまった。彼は無意識にヤキモチを妬いてくれたのだろう。それが嬉しくて、私の気持ちはぐっと上を向く。 「お待たせしました。パンケーキです」 やがて運ばれてきたパンケーキに、予想外のフォルムだったのだろうか一彩くんは目を丸くした。 「美味しそう!いただきます!」 メープルシロップをたっぷりかけて、ふわふわのパンケーキにナイフを入れる。切った感触がないくらい柔らかいそれをそっとフォークで刺して食べた。口の中で溶けてしまいそうな独特の食感がたまらない。一彩くんも私の食べ方を見て、真似するように同じく口に運んでいる。 「……!!」 その瞬間、一彩くんの目がキラキラと瞬いた。 「溶けてしまった…!」 「ね、ね、美味しいよね!」 「すごい…!パンでもケーキでもない不思議な食感だ…!!初めての経験だよ!」 そう言って小さな子のように好奇心旺盛な様子を隠さずパンケーキにパクつく姿は本当に可愛らしいな。などと和んでしまう。 「そ、そう?よかった!いっぱい食べて!」 「これはあまりゆっくり食べるとアイスのようにお皿の上で溶けてしまわないのかな?急いで食べた方がいいかい?」 「溶けないよ!大丈夫」 質問が可愛くて、思わず小さく笑ってしまう。彼にとっては未知のものを初めて私がプレゼン出来たのが嬉しいなんて言ったら、少し独占欲が過ぎるだろうか。 「こんなにも美味しかったのか。連れてきてくれてありがとう!」 「喜んでくれてよかった。また来ようね」 「ウム!」 大きく頷いた一彩くんを見て私もまたパンケーキを一口、口に入れる。柔らかい甘みが舌に馴染むようにとろけていく。 紅茶で喉を潤した所で、窓の外はパラパラと小雨が降り始めた。 「あ、雨降ってきちゃった」 「本当だ。このまま少しここで雨宿りさせてもらおう」 「そうだね。一彩くんパンケーキまだ食べたいなら頼んで大丈夫だよ」 時間はあるよ。と言えば一彩くんは少し考えてから、もう一枚追加で注文をするよ。とにこりと笑った。 私も幸せそうな彼が見れるのが嬉しいななどと一人思いながら紅茶をもう一杯頼もうと、カフェのおしゃれなメニューをそっと開いたのである。 [prev][next] [Back] |