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茨とロック画面
2025/11/04 20:10

 一体彼は何台のスマホを持っているのだろう。とよく思う。折角のオフだというのにいつものようにどこかから来た電話を取って気味が悪いほど愛想良く返事をしている茨くんをテーブル越しに見ながら、私はちょっとだけ呆れてため息を吐いた。

 私が知る中で、彼が所持しているスマホは仕事用が二台。あとプライベート用があるのは知っている。私が彼と連絡を取る時はプライベート用のものを使っているのだろうけれど、私が目にするスマホは大抵仕事用の一号二号である。というのも家に来てくれてもすぐブラック社員よろしく得意先から連絡が来るもので、すっかり彼のプライベート用のスマホなんてお目にかかることはなかった。


「あ、お世話になっております!はい、その件は自分にご連絡頂いて大丈夫であります!!」

 仕事用、というか本心を隠しているような笑顔で彼は席を立つと、一度私に謝罪するように目配せしながら洗面所へと向かっていった。私に配慮したり社外秘の会話だったり、いつも彼はありとあらゆる事情を抱えている。

 私は仕方なしに珈琲でも淹れようと席を立とうとした所で、不意に床に転がっているスマホに目がいった。勿論自分のものではない。だとすれば確実に茨くんのものなのだが、あまり見覚えがなかった。

 そこで気が付く。もしかしてこれが彼のプライベート用のスマホなのではないか、と。

そう思った瞬間妙に好奇心が湧いてしまった。勿論中を見たいわけじゃないけれど、物珍しさに思わず手に取る。
 床に転がったままのそれをそっと取って、私はボタンを押さないように注意しながらそれを一周視線を回すように見つめてみた。よく見かける仕事用のスマホに比べてなんだか妙にきれいなのは、多分使用頻度がこちらのスマホの方が少ないからだろう。それだけ忙しいという反面、彼の私的な交友関係っていうものがなぜかちょっと浮かばなかった。

「あっはっはっは!!」
「ひぃ!!」

 すると不意に、洗面所の方から彼の高笑いが聞こえてくる。それに驚いて、私は用心していたはずなのに彼のプライベート用スマホのホームボタンを押してしまった。画面がパッと明るくなり、ロック用の画面が点く。彼のスマホはパスワード入力画面の前に一旦ロック用の待ち受けが表示されるタイプのスマホだった。そしてその画像を私は見てしまっのである。

「え、えぇ!?」

 その待ち受け画面は紛れもなく私だった。私だ。間違いなく、疑いもなく私なである。
 寝顔の。

「なにこれ!!」

 何か恐ろしい物を見たかのように「ぎゃあ」と悲鳴を上げれば、ちょうど得意先との電話を終えたらしい茨くんが帰ってきてしまった。

「やぁやぁ席を外してすみません!……ん?」

 最初はいつもみたいな笑顔を見せていた茨くんだけれど、まず私の顔を見てから私の手の中にある自分のスマホを見て、サッと表情を変えた。

「あ!それ!お、俺のスマホ!!」
「ひぃ!違うの茨くんちょっと待って!!」

 思わず言い訳めいた事を言いながら、私はものすごいスピードでスマホを奪いにきた彼にあっけなくそれを取られる。その反動できっとホームボタンを押してしまったのだろう。またもやこちらに向かって私の寝顔が丸見えだったので、私はまるで見てはいけないものを見たかのようにサッと視線を外した。

「アッ、ちょっと、ご、誤解です!自分はこれ、べつに盗撮したわけでは!!」

 私の視線で察したのだろう。彼にしてはものすごく珍しく動揺しながら、背中に自分のスマホを隠した。

「……あの、ごめんね…ち、ちがうの。床に転がってて、スマホ…茨くんのプライベート用なのかなって、踏んじゃっても大変だしって思って…」
「…拾ってくださったのはありがとうございます」
「す、すみません」
「こちらこそ…いえ、弁明させてくださいこれはべつに、誰かに見せようとかそういう思惑なんてなくて」

 そんな思惑あったら困る。ふと彼を見ると、今まで見たことがないくらい顔を赤くして俯いていた。よく見ると耳まで赤いではないか。珍しい。初めて見る表情である。そう思ったら、なんとなく羞恥心が減った。彼の方がきっと、恥ずかしすぎてしにたいだろう。

「こ、個人用なら、好きにしたらいいよ…」
「……はい」
「ちょっと恥ずかしいので、出来れば待ち受けにするのはやめて欲しいな…」
「……」

 黙った。却下という事だろうか。けれどすぐ、彼は恐る恐る口を開く。

「仕事が忙しい、時にですね」
「はい…」
「こう、ボタン一つで押せば見える状態じゃないと意味ないんですよ…」
「…そう、ですか…」

 以外と切実な願いに、どうにも強く出れなくなった私は「普通の写真じゃだめか」と聞いてみる。
 結果は問答無用で却下だった。



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