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一彩と大正新婚パロ
2025/11/04 20:15

 帝都の大きな商家の末娘として育った私はいつかきっとどこかのお屋敷に嫁いで、親くらい歳の離れた男の人のお嫁さんになって家同士の結びつきの為に使われるんだろうな。なんて思って半ば諦めていた人生ではあるけれど、まさか帝都からも出されてど田舎の領主の息子に嫁がされるなんて思っていなかった。

 帝都から列車に乗って数日、そこから馬車で数時間掛かって着いた山間の村は、帝都の匂いなんて一欠片もしない、領地の広さに反して質素な村だった。

 え、私これから死ぬまでこの村で過ごすの。なんて、絶望が頭のてっぺんから爪先まで貫いた。だって何もない。帝都みたいに百貨店も、ミルクホールも、洋品店も無い。何も娯楽の無い、何も無い村。何故お父様はこんな村にわざわざ娘を嫁にやったんだろう。

 お父様くらいの歳のおじさんと結婚するかもしれない、という可能性については小さな頃から諦めていた。だって一番上のお姉様がそうだったから。でもたとえそうでも、帝都という娯楽に溢れた街にいればどうにでもなると思っていたのに、まさか、こんな田舎の村でおじさんと生きていかなきゃいけないかもしれないなんて、聞いてない。

 あぁ、こんなことなら真面目に花嫁修行なんてしなきゃよかった。きっとお姉様達が家事もまともに出来ないから、自分で言うのもなんだけどもお嬢様のくせにそういったことが得意な私にお鉢が回ってきたのだ。

 結婚相手の顔も知らず、荷物ひとつ抱えてこんな所までやってきた自分が、なんだか馬鹿らしく思えて仕方なかった。 
 けれどその杞憂は、村の領主の屋敷に通されてから一変する。

「遠い所をよく来てくれたね!僕が君の夫になる天城一彩だ!よろしく頼むよ!」
「す、すす、末長くよろしくお願い申し上げますぅ…」

 ものすごい男前が来た。同い年くらいで、眩しい笑顔に既に目が潰れそうである。仲人の伯父様と二人で礼をしてから、伯父様は婚儀の話し合いの為に領主様とお話をしに行ったので、ポツンと残るのは私と未来の旦那様だというものすごく私の好みを顔をした殿方である。

「君の名前は?これからなんと呼べばいいかな?」
「あ、えっと、えっと」

 緊張し過ぎて焦ったように口を早めながら名前を言うと「素敵な名前だね!」と褒めてくれた。嫌味が全くない褒め言葉に、照れつつも慌ててしまう。

「とりあえず荷物を置きに行こうか。僕と君がこれから住むのは屋敷の離れになるよ!」
「は、はい」
「?何か緊張をしているのかな?気楽にしていいよ!これからずっと僕と君は夫婦なんだから」
「いえ、あの…お相手様のお顔を知らなかったので、驚いてしまって」
「何かおかしい所があるかな?だとしたら僕が相手で申し訳ないよ」

 いいえ逆ですう、と呟くと彼は一度首を傾げたが、サッと荷物を片手に、もう片手は私の手を取ってこれからの住まいになる離れと、本家の方を案内してくれた。その間に色んな事を話す。

 一彩さんは、本来は兄がいたのだけれど帝都に行ってしまったので自分が領主になること、この村は狩猟と革製品の製造を生業にしていて、私のお父様を介して帝都に品物を卸している事を教えてくれた。そうか。だからお父様はここの村と結び付きを強めたくて私を嫁がせたのだ。

「私は…お父様のお仕事の為にお父様くらい歳の離れた人と結婚するんだろうって思っていました」
「そうなのか?ならやはり相手が僕なのは不満かもしれないが、僕は君とうまくやっていきたいと思っているよ」

 そんな、そんな!と私は思い切り首を振った。お父様くらいの年齢の人と結婚なんて本当はしたくない。

 というか一彩さんの顔が好み過ぎて、姉様達が嫁がなくてよかった〜とさえ思っている。

「いいえ。歳の近くて、その…素敵な方に嫁げるのを、嬉しく思います」
「そうか!僕も嬉しい!」

 眩しい〜!!視覚的には眩しくもなんともないけれど、彼の笑顔に思わず目を細めてしまった。 

 お姉様達が田舎の村なんて陰湿で嫁に対して風当たりが強くて、絶対に行きたくない。あんたは可哀想と散々言ってきたけれど今や鼻で笑ってやりたくなる。
 お姉様達。私は幸せになります。


 とまぁ、浮かれ浮かれて彼、一彩さんの嫁になってもう半月が経った。実家は洋風の家だったから寝る場所が寝台から布団に変わったのは慣れるのに少し時間が掛かったけれど、ようやく慣れてきた。

 けれどどうしても慣れない事がある。
 毎朝一彩さんは鍛錬があるというので、私はそれより早く起きようと日が昇るより早くに目を覚ますようになった。お湯を沸かして、彼の鍛錬が終わる頃に朝食をお出ししたいからである。

 体が早朝目を覚ますのに慣れてきたのか、微かに意識が浮上した。頭を置いているはずの枕が妙に不安定で、居心地の良い場所を探そうともぞもぞと頭の位置を変える。

 そこで気がついた。私が頭を乗せているのは枕じゃない。目を開ける。彼の寝顔がすぐ側にあった。近い。当たり前だ。いつのまにか私は彼の腕を枕にして寝ていたではないか。

「ひ、ひやぁああ!!」
「!!賊か!!」
ゴン!
「いたぁっ!」

 思わず上げてしまった悲鳴で跳ね起きた一彩さんが私の頭の事を気にせず腕を外したので、布団にしたたかに頭を打ち付けた。彼は今し方目を覚ましたとは思えない機敏さで外の様子を伺ってから、何もない事を確認して戻ってきた。

「今の悲鳴はどうしたんだ?」

 敵襲でもあったのかと思ってしまったよ!と言われ、私は「貴方の綺麗なお顔が近過ぎて驚いてしまった」と言えなくなってしまった。

「あ、あ、え〜と…その、申し訳ありません。私怖い夢を見てしまって…」
「夢?」

 はい…。と苦し紛れの言い訳をして、表情を読み取られないように下を向いた。一彩さんは第六感に長け過ぎているので、何かを悟られない為に、である。

「そうか…何か危険が迫っていないならそれでいいよ。僕がいるから安心して欲しい」

 よしよし。と頭をかなり力強く撫でられてしまい、申し訳ありません旦那様。と頭の片隅で思いつつも彼の優しさにドブンと沈み込んだ。

「それにしても君はよく怖い夢を見るね。何か不安な事があるならいつでも言って欲しいよ」
「あ、あぁ、いえ、そうではないのです」

 これで彼の寝顔を見て悲鳴を上げてしまうのも通算何度目かわからない。こんなにも男前な旦那様にだって責はある。なんて思いながら、私は今日も少しだけ軋む身体を起こして一日を始めるべく、身支度を整えるのである。


「疲労のせいもあるのだろうか?まだこの生活に慣れないうちは夜の営みは控えた方がいいかな?」
「いえそれは、」

 控えないで結構です。なんてはしたない事を思わず言ってしまって、一彩さんの目をまん丸にさせてしまった。好色だと思われたらどうしよう。と私はサッと顔色を青くする。

「そ、そうか。なら、いいんだ」

 あぁ朝からなんて空気に。と思ったけれど顔を真っ赤にした一彩さんを見たらどうでも良くなって、私は布団を仕舞うのを一瞬悩んでしまったのだった。
 



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