TOP > 更新履歴 > 記事 紅郎と酔っ払いの彼女 2025/11/04 20:21 「だっこ、だっこ〜」 「あぁほら、仕方ねぇな」 いい歳してぐずるように彼に手を伸ばせば、ため息を吐きつつも紅郎くんは私をよっこいしょと座ったまま抱えて、胡座をかいた膝に乗せてくれた。私の身体が膝から落ちないように腰をしっかり支えてくれているのがなんだか嬉しくてぎゅうと抱き付けば、彼の張りのある筋肉に沿って隆起した肩甲骨に指が触れた。それをぐりぐりといじると「くすぐってぇからやめろ」と制止される。私は拗ねるように手を離してから身体を捻って方向転換し、テーブルの上にある缶ビールに手を伸ばした。まだ半分ほど入ってるそれをぐいと飲む。 「あっ、それ俺の……まぁいいけどよ。お前今日飲み過ぎじゃねぇか?」 「いいの。今日はやけ酒の日だもん。だからいいんだもん」 「もん、じゃねぇって……」 とは言うものの、紅郎くんが明らかに飲み過ぎな私を止めないのは、多分後ろめたさがあるからだ。何故ならつい先日彼はすっぱ抜かれた。しかもよりによって彼が衣装のデザインを依頼されたというソロ女性アイドルとすっぱ抜かれた。 もちろん事実無根な上、本来は同じく衣装の共同制作をしたらしい斎宮宗くんもその場にいたというのにあたかも二人でいるように撮られたらしく、斎宮くんがSNSで大暴れした結果真実が立証されたらしい。さすがの斎宮くんである。 というわけでその説明を紅郎くんにきっちりしてもらったのがついさっき。そしてすっかり出来上がった私が今である。勿論信じていなかったけれど、心のどこかで不安を覚えたのは確かなのだ。だからいつもはお母さんよろしくもう飲むなと止める紅郎くんが止めないので、私は好機とばかりにいつもは我慢していたワガママを発散しているのである。 「ちゃんと俺に寄っ掛かりな。危ねぇから」 私を膝の上に乗せたまま、シートベルトみたいに抱きついてくれるのがなんだかとても嬉しくて、私は身体を預ける。そこでもう片方の手でテーブルの上のつまみを食べようと手を伸ばした紅郎くんの逞しい腕がふと視界に入った。ので、 「いて!」 かじった。しっかりと筋肉のある太い腕に戯れ程度の力で噛み付いてから彼の顔を見れば、呆れたような顔をこちらに向けている。なのでもう一度同じ所を噛んでみた。歯形が付かない程度だからそこまで痛くはないはずだ。 「こら、噛むな」 「筋肉、噛み心地がいい」 「お前、思った以上に酔ってるだろ。今日はもうやめとかねぇと明日が辛いぞ」 「平気」 缶ビールをテーブルに置いて、紅郎くんの先ほど噛んだ方の腕をぐにぐにと揉んだ。しっかりとした筋肉だけれど以前腕が太くなりすぎると衣装が入らなくなると言っていたので、ある程度セーブしているのだろうと思う。確かに腹筋も見事に割れてはいるが筋肉を日々育てているような人たちに比べたら紅郎くんだって全然細身な方だ。 「本当はもっと筋肉付けたいとかあるの?」 ねぇねぇとくだを巻きながら、彼に向き直ってぺたぺたと胸筋を触る。しっかりと筋肉は付いてるものの、なんというかちょうどよくかっこいいくらいでキープされている辺りがすごい。人によるとは思うが、大多数の女子はガッツリボディビル系の筋肉よりもちょっと細身なくらいの方が好きで、言わずもがな私もだ。紅郎くんであるならば正直なところ体型なんてどうでもいいが、あくまでも一般論を述べるならである。 「あまり体重重くすると、ダンスに影響出るからな。神崎はともかく細身な蓮巳の佇まいとかけ離れすぎちまうと一体感がなくなる」 「へぇ〜」 彼の努力にうっかりキュンとしてしまい酔った勢いで首元にちゅっとキスをすると、予想だにせず引き剥がされた。呆気に取られて紅郎くんの顔を見ると、表情は呆れ顔だけれどお酒を飲んだ時より赤くなっている。 「やめとけ。お前、酒入った時誘うクセあるぞ」 「そんなのないし、別に誘ってない」 「そうかよ」 苛立ったように切羽詰まった彼の低い声が耳元で熱く吐き出されて、そのまま抱き抱えられてソファに押し倒される。お酒を飲んで汗ばんだ私の肌を、彼の大きな手が少しばかり強引に這った。 [prev][next] [Back] |