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ジュンと酔っ払いの彼女
2025/11/04 20:27

「おぁ、」

 情けない声が思わず喉から迫り上がってこぼれ落ちたが、ジュン自身はそんな事を気にしている余裕など微塵もなかった。指先から伝わってくる温かくて柔らかい、少し湿ったような感触が心臓が破裂するくらいの動悸を誘発しているのだ。思わず目の前の彼女の名前を呼べば、彼女は一度チラリとこちらを見て、また先程の愛撫とも言える戯れを再開させた。

「……」

 彼女が無言でジュンの指先に先ほどからちゅっちゅと音を立ててキスをする様は、えもいえぬ感情をジュンの中にズルズルと落とし込んでくる。行為としてはかわいいのカテゴリに入りそうなものだがそれが妙に扇状的なものに見えて、不意に視線を外せば彼女はそれをからかいがいがないと思ったのだろう。少しムスッとしてから、今度はジュンの指を第一関節辺りまで咥えた。

「ひえぁ、」

 先ほどよりも一層情けない声が漏れて、ジュンは一気に頬を熱くする。逸る鼓動のせいで既にかいていた汗が一筋こめかみから頰に伝ってくる。

「あの……急になんすか」

 よたよたとした情けない声でそう言えば、彼女は今度は恋人繋ぎをするようにジュンの指と自身の指を絡めてくる。彼女も自分も手のひらが熱いのか、相手の体温をあまり感じなかった。

「ジュンくんの腹筋がかっこいいのはさぁ、全世界の人間が知ってるでしょ?」

 いきなり何を言うのかと思いつつも、彼女の語尾は蕩けそうな辺りやはりいつもの彼女ではない。

 それも当然である。今日は日和からもらったワインを二人で、否ほぼ彼女一人で空けてしまったのだ。少し飲めば満足する自分と違い彼女はその味に魅了されてしまったのか、いつもよりハイペースで飲んでこの有様である。ワインはアルコール度数が高い。

「でもねぇ。私のおすすめは手なの。指ゴツゴツしてるのに綺麗でかっこいい」
「はぁ、どうも……」

 突然何を言い出すかと思ったけれど、彼女に褒められるのは純粋に嬉しい。思わず目に見えない尻尾をぶんぶん振ってしまいそうになりながら、ジュンは努めて冷静に接することにした。酔っ払いの相手だからというのもあるが、彼女の「かっこいい」に舞い上がってる自分への照れ隠しもあるのだ。

「かわいいお顔しておてては立派な男の人だねぇ〜」

 ちゅ〜しちゃお。と呟くや否や、また彼女の柔い唇が指先に触れる。むず痒くて甘くて、どうしたらいいかわからない。けれど自分だって少量とはいえアルコールが入っているのだ。それにかまけて、ジュンはちょっと甘えて拗ねてみることにした。

「かわいい?オレ、かっこいいの方が嬉しいですけど」

 絶対に素面では言えないセリフだ。こんなもの常時言ってたら恥で爆発する。けれど彼女はジュンの指から唇を離してニンマリ笑うと、一気に近づいてきてジュンの太ももを撫でた。もう完全にセクハラであるのに、悦ぶ自分が情けないとジュンは内心で己を殴る。

「あのね、私の言うかわいいは世間のかわいいとは違うんだよ」

 そう言いながら彼女が小さな手でジュンの太ももを撫でてから、ちょっとつねるように指で摘んだ。が、うまく指が引っかからず指先で撫でるだけで終わる。

「あれ、脂肪が無くてつねられないや〜」
「そりゃ、そうっすよぉ」

 一応相手の言葉に反応しつつも、ジュンは次の言葉を待つ。かわいいに違いがあるのか。それはなんなのか。
誰に言われても特に興味のない言葉だが、彼女からのそれはわけが違う。太ももに感じるじわじわとした熱に、だんだんと上がりそうな情けない性欲を持て余していると、やがて彼女がジュンを半分押し倒すように上に乗った。もはや早鐘である心臓の音がジュンを埋め尽くしていく。先ほどまでジュンの指に口付けていた唇が、楽しそうに開いた。

「あのねぇ。私の言うかわいいは恋人だからかわいいの。ジュンくんはかっこいいよぉ?でもね、恋人だと相手のことかわいいかわいいよちよち〜てしてあげたくなっちゃうんだよ〜」

 彼女が上に乗ったままジュンに抱きついてきた。ばふ、と柔い感触に顔が埋まって、期待のあまりあらぬ部分がもう反応しっぱなしである。

「かわいいって言われんの、いや〜?」

 ワインに浸った彼女の思考や身体の熱が、ジュンに甘えて来いと訴えてくる。そこまで言われて期待に応えないわけにはいかないという大義名分を元に、ジュンは彼女の腰に手を回した。

「いやじゃ、ない、かも」

 でしょ?と笑う彼女の服を捲り、汗ばんでいる肌にジュンは熱い指を滑らせた。



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