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宗とデート服を選ぶ
2025/11/04 20:34

 夕食が終わってひと段落ついた頃、私はクローゼットをこれみよがしに開けて、中に掛かっている自分の服をちょいちょいといじった。あたかも「明日着る服に迷っています」と言いたげな仕草をしていると、極上な餌をぶら下げられた魚のようにこちらに食いつく人が約1名いる。

「明日着る服の準備かね」

 彼である斎宮宗はすっくと立ち上がると、私越しにクローゼットを覗き込んできた。本来の彼ならば女性のクローゼットを覗くなんて!と言いそうなものだが、私に限ってはそこそこそういう境界線を雑に越えてくる。なんだか嬉しいので、彼の自然な動作はそのままだ。
 私はクローゼットの中から買ったばかりのニットを取り出して、彼の前で体の前に当ててみた。

「これ着たいの。下は何がいいと思う?」
「下ではなくボトムと言いたまえ。そうだね……」

 宗くんは顎に手を当ててしばし私とニットを交互に見てから、少し悩むように目線を斜め下に置いた。それから私をどかしてクローゼットの前に立つと、すいすいと二着のスカートとパンツを出してきた。

「こちらのスカートなら昨日履いていたショートブーツ。パンツならローファーがいいと思うよ。どちらが好みかね」
「う〜んと、」

 私は目の前に出されたパンツとスカートを見て、それから宗くんを見た。彼に「どっちが好き?」と聞いてもおそらくどちらでもいいと言うだろう。二つ提示してきたということはどちらもお眼鏡に適った証拠なのだ。
 しかし私は右側のスカートを手に取って、「こっち」と呟いた。宗くんは少し目を丸くする。

「意外だね」

 確かに今までの私ならすぐにパンツを選んだ事だろう。スカートよりもパンツの方を選びがちで、おしゃれよりもサッと着れるものが好きだった私。彼が出来てもおしゃれに一生懸命になるのが少しだけ恥ずかしくて、そんな自分が嫌だった。

 でも彼のおかげで自分に自信を持つことが恥ずかしくなくなって、一生懸命おしゃれを頑張れるようになれたのだ。宗くんの好みである上品でデザイン性の高い服を着るのはまだ難しいけれど、いつか挑戦してみたいとも思う。彼のおかげだ。

「宗くんがこっちの方が好きかなって」

 恥ずかしいけどそう言って笑うと、宗くんはびっくりするように目を丸くしてから、一度咳払いをして仕切り直して、いつものように高笑いした。

「カカカッ!僕の見立てだから間違いないね!まぁどちらでもいいけれど、スカートの方が僕もいいと思っていたのだよ」
「デートだしね」

 そう、明日は久しぶりに彼とデートをするのだ。と言っても定番のデートスポットに行くのは難しいから食事に行くだけだけれど、それでも私は嬉しかった。新しい服を下ろすなら今だと決めていたのだ。

「そう、だね」

 私の言葉を、今までの宗くんならなんだかんだとスルーしていたのだろうけれど、彼は一つ頷いて満足そうに微笑んだ。切長の涼しげな目が優しげに細まるのが愛おしい程度には、私も宗くんが好きなのである。

「鞄はどれがいいかな?」
「小さいのがいいよ。これならアウターはこれ、これなら…こっちがいいね」

 ついでに鞄も決めてもらおうとしたらアウターまで引っ張り出してきたので、私はそれを見比べる。色の組み合わせまでバッチリだけれど、よく見ると彼のアウターの色と微妙にリンクさせている事に気づいた。これは二人で並んだ時のバランスまで考えているな、ということを内心で悟る。そういえばスカートも、彼と並んだ時に浮かないデザインではないかと思い、リンクコーデまでは行かずとも自分とセットで考えているのがなんだかかわいい。

 二着のアウターに二つの鞄。よく見るとどっちにも宗くんがくれたものが入っていて、やはり彼は相手の好みに合わせるよりも自分の好みに合わせたい人なんだなと再認識した。宗くんだからこそ全く嫌ではないし、自分のセンスを信じきっている所は大好きだ。勿論彼に任せれば間違いはないのだけど、少しだけ試したくもなる。

 私は二つのアウターを持っている彼を通り過ぎて、クローゼットの中から全くテイストの合わないダウンコートを取り出し彼に見せてみた。私の所作を見つめていた宗くんの表情が一瞬固まるのを見て、私は内心吹き出す。悪戯を仕掛けるように、私はあえてそのダウンをひらひら振ってみた。

「アウターこれにしようかな〜寒いし!どう?」
「……」

 以前の宗くんならば大声で「ノンッ!」と言った後、いかに今私がダサいチョイスをしているかを語ったものだけれど、自惚れもあるかもしれないがそれに余るほど私を愛してくれている彼である。さあ、どう動くだろうとワクワクしていると、彼は一度持っていたアウターを置いて、新しくニットとパンツを出した。

「そのダウンをどうしても着たいと言うのなら中はこちらにしてはどうかね……?」

 まさかの折衷案を出してきたので、私はびっくりして二度三度と瞬きをする。衣服の鬼がまさかの妥協をしてくるなんてと驚いていると、宗くんがポツリポツリと話す。

「折角のデートなのだから、君が着たいものを着るべきだ。まぁ、断然こちらの方がいいけれど、何を着ても君は君だしね」
「えっ、すっ、すご」

 思わず本音を零すと、私はさっさとダウンと彼の苦心の折衷案コーデを仕舞い込んだ。まさか折れてくれるなんて思わなかったし、ついでに寄り添ってくれるのも予想外だ。

「何がだ」
「いや、宗くんからの愛が嬉しいな〜って話!ごめんねうそうそ!このニットとスカートで行くよ。鞄はこっちにしようかな。お気に入りのやつだし」

 そう言って宗くんが組み合わせてくれたアウターと鞄を取り、自分の体に当てる。何がなんだかわからない、といった表情の彼をそっちのけて、私はハンガーにコーディネートしてもらった服を全て合わせて掛けた。やはり、二人並んだ時のバランス重視な服だ。

「うん、これいいね。二人で並んだ時すごく自然!」

 それでもいいと私は思う。二人で並ぶ前提のコーディネートは私が欠けても彼が欠けても成り立たないのだ。



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