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夏目が占術師な中華王宮パロ
2025/11/04 20:44

「ハイ、本日は南南西に吉凶の風が吹くって出てるネ。姫さまは今日兵舎には近寄らないことをお勧めするヨ」

 大きな風水羅盤に指を滑らせた夏目が視線を上げた。私もその場でじっと風水羅盤を見つめて何度も頷くと、先ほど夏目が占った結果を書記官がサラサラと記入を始める。

 王宮占術師である彼、夏目による朝の占いは私が成人の儀を終えるまで毎日行われることだった。広い王宮内で唯一皇位継承権を持つ私は、命を狙われる存在でもある。毎日変わる吉凶の種を先読みするのは非常に重要であり、王宮内の占術師の中でも凄腕の夏目は私の専属占術師として側にいることが多いのだ。

「毎朝ありがとう夏目。今日は何色の衣を着たらいいかしら」
「そうだネ……薄い紫は吉、と出てるヨ。ほら、ちょうどこんな色」

 そう言って夏目が自分の衣をひらひらと振った。赤い髪がよく映える、薄い紫の衣に赤い紐の透ける素材の袖口が美しいそれは、夏目のトレードマークである。この国では特に皇族と同じ色の衣装を着てはいけないなんていう決まりはないし、私は彼の返事に少しだけ胸を躍らせた。

「そ、そっか。じゃあ今日はそういう色の裳(スカート)にしようかな。……確かあったわよね?」

 女官に念のため確認すると、彼女は頭を下げて衣装部屋へと戻っていった。今着ているのは濃い緑の衣だから全部着替えが必要だ。占術による教えは破らないに限る。夏目のような凄腕占術師の占い結果は特に、だ。

「今日だけお揃いだネ。姫さまと一緒なんて恐れ多いことだけド」
「う、ううん。そんなことないわ。夏目はその色とても似合っているから、遠慮して着替えたりしないでね」

 夏目が意味深げに微笑んだので、私は慌てて俯いた。このあまりにも美しい占術師は、私が今一番嫌われたくない人なのだ。普段から何を考えているかよくわからないし、占術師以外にもなにかお仕事をしているようなのだけれど、その仕事を私に教えてくれたことはない。それはきっと私がこの国の姫だからだろう。必要のないことは知らせない、全部隠しておしまい。そうやって『綺麗に育てられている』ことを、私は知っている。

 私が女帝になったら、夏目は全てを教えてくれるのかな。国の為に、そしてそんな小さな期待を胸に、私は日々父さまの後を継ぐ為に励んでいる。


「今日は僭越ながら、姫さまの側仕えの命が出てるんダ。一緒について回っていいかナ?」
「え?そうなの?珍しいね」

 外に面した廊下をのんびり歩きながら、私と女官、そして夏目は図書室を目指していた。日課の勉強の時間である。
 占術師は非常に特殊な立場で、こうして彼は男性であるのに女性皇族の居室に入ることが許されている。
なので必然的に、彼が私の護衛を勤めることもあるのだ。あまり汗をかくようなことをしているイメージのない夏目だけれど、護衛の訓練は受けているらしい。

「うん。ついでに風水羅盤の読み方でも教えようカ。知っていると占いがもっと深く理解出来る……」
「ほ、ほんと!?」
「かもネ」

 夏目は相変わらずお茶目で、そんな所も私の目を離さない要因だ。
 どうせ、私の結婚はどこかの高官の息子か異国の王子さまで、夏目には女帝になった私からいいお嬢さんを紹介することになるのだ。好きな人に結婚相手をあてがう地獄を味わうことになるのだから、それまではほの甘い夢を見せて欲しい。 

「でも、占術に興味はあるわ。私も……」
「姫さま!!」

 しかしその刹那、強い衝撃と共に、私は床へ押しつけられるように倒された。悲鳴を上げようとした口元は女官の手に強引にふさがれ、瞬時に私は何が起きたか悟る。視界に入ったのは見慣れた我が国の矢羽根がついた矢が一本。私を狙って射られたのだ。女官が私を庇って覆い被さってくれたようで、私の上で震えながらも守ってくれている。

「夏目!?夏目大丈夫!?」

 女官が手を外してくれたので思わず彼の名前を叫ぶと、目の前ではつい先ほど私の横にいたはずの夏目が小刀を手に遠くを睨んでいた。すぐさま兵士たちにどこか遠くを指さしながら指示を出し、いきなり自分の衣を破いて縛っている。よく見ると、薄紫の衣が血で汚れていた。足下には血のついた矢尻がついた矢が転がっている。射られたのだ。

「夏目!誰か、医官を!!」
「このくらいなんともないヨ。毒も塗られてない」
「でも、」
「南南西よりの射撃だネ。やれやれ、吉凶の方角が当たっちゃったナ」

 ため息を吐きながら、夏目は私を立たせ、建物内に入るよう促す。私を守ってくれた女官もちゃんとついてきたことを確認してから、私は思わず座り込んだ。

「ありがとう。二人とも」
「ボクらの仕事サ。それにしても、犯人はお粗末極まりないネ。ボクと姫さまを見間違えるなんテ」
「えっ、」
「この前わざと情報を流しておいたんダ。姫さまは薄紫の衣がお好きでよく着るんだって。案の定、遠目だったからボクと間違えた。さらに一瞬どちらが姫さまかわからず隙を作った結果、矢を外した。姫さまのご尊顔を知らない人間の犯行で間違いなイ」
「そ、そうなの?」

 真剣な顔をした夏目に思わす触れると、夏目はにっこり笑って言った。

「大丈夫だヨ姫さま。ボクがちゃんと守ってあげるから。占いに絶対はないけれど、同時に不可能もないのサ」

 そう言って笑う夏目はどう見てもただの占術師ではなくて、戦を知っている者の顔をしていた。
 夏目は国一番の占術師。それは間違いない。でもその裏の顔は?
 よくわからなくなりながら、私は彼の手当をしようと腕を見せてもらった。

「夏目、予想以上にしっかりした腕、してるのね」
「そう?」
「もしかして占術師なのって、嘘?本当は武人だったりする?」
「やだなァ。ボクがそんな肉体労働するはずないでショ」



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