TOP > 更新履歴 > 記事 こはくの学パロ 2025/11/04 20:46 隣の席の桜河こはくくんは、少し変わっている。 「おはよう桜河くん」 土日と祝日を挟んで久しぶりに学校へ来ると、なんとなく体が気だるい。私は一つあくびをしながらも先に席に座っている桜河くんに挨拶をした。1年の頃から同じクラスで、偶然にもよく席が近くなる彼とは男子の中では比較的仲良しな部類だと思う。珍しい方言に、どこか浮世離れした雰囲気。でも時折男らしい所が、私は気になって仕方ないのだ。 「ん……おはようさん」 「眠そうだね」 私は鞄を置いて席に着くと、机に突っ伏す桜河くんを見た。私よりも数倍眠そうな彼は、少しどんよりとした目で私を見ては「ん〜、」と唸る。 「昨日ちょっと夜寝るの、遅なってしもて……」 「連休だったから昼夜逆転しちゃったとか?わかるよ〜」 「まぁ、そんな所やわ。友達とチャットしとってな」 「へぇ、桜河くんチャットとかするんだ」 ぱっと見た感じネットとかには弱そうなのに、意外である。彼がブラインドタッチとかしているのが想像できない。 「せやな。座敷牢におった頃っち、娯楽がパソコンしかあらへんかったから。わりといじれるつもりやで」 「ふぅん」 また出た。謎のザシキローという単語。私は話の文脈から彼がここに来る前にいたどこかの地名だと思っているけれど、いくらネットで検索しで不穏な単語しかヒットしないのだ。彼がそれについて話さない限り、私もなるべくその話題に触れない事でなんとか均衡を保っている。 「友達がな、最近人気のスイーツがこの学校の近くに売ってる言うて、おすすめしてくれたんよ。でもわし、そういうの疎くてなぁ。ぬしはんこの店知らへん?」 桜河くんがスマホの画面を見せてきたので覗き込む。すると私の家の最寄駅にあるフルーツサンドのお店だった。確かに人気で、日によっては売り切れている事もある。 「あ、ここ私の家から近いよ。色んなフルーツサンドがあって美味しいの」 「ほんま?えぇなぁ。わし甘いもの好きやねん」 ここで私は、半年分くらいの勇気を持って彼の言葉に返事をするべく拳を握った。周りの喧騒が遠くなって、自分の鼓動がバクバクと、やたらと大きく騒いでいるのが全身で感じられた。今だ、今だ。と何度か助走のタイミングをつけてから、えいやっと飛び込んでみる。 「よっ、よよ、よかったら、私案内しようか?」 助走をつけたわりに何度もつっかえながらそう言うと、桜河くんはぱっと目を輝かせた。 「ほんま?えぇの?」 「うん。あのね、意外と分かりにくい所に、お店あるの。だから案内するよ」 「おおきに!ラブはんのおすすめやさかい、食べてみたかったんや」 「ら、らぶはん?」 「さっき言った友達や」 ラブはん、つまりラブさん。名前からしてなんとなく女の子な気がして、私はガクッと肩を落とした。スイーツに詳しいラブさん。まさか桜河くんのお友達が女の子だとは思わずに、一人舞い上がってしまったのが悲しい。もしかしたら彼女かもしれない。夜ふかしするくらいチャットで盛り上がる親密な女の子が、桜河くんにいたなんて。 「そ、そうなんだ……その、いつがいい?」 これももしかしたらデートの下調べかもしれないと思ったら、先程の勇気を持って飛び込んだ私の覚悟はどこかへ散り散りになりそうだった。なぁんだ。そうだよね。桜河くんかっこいいもん。彼女くらいいるかぁ。 でも彼の役に立ちたい私は健気にも、そして律儀にも彼に予定を聞いてみた。すると桜河くんは一度考えるように目線を斜めに持っていってから、私の目を見て言った。 「せやったら、その、急やけど今日の放課後、とか空いてへん?スイーツのお店っち、水曜休みの所が多いやろ。今日は火曜やさかい」 「今日?う、うん。いいよ」 ちょうど今日はバイトもないし。と言うと、桜河くんは何度も頷いてお礼を言ってくれた。 「急なお願いやのに、おおきに。もし買えたらお礼に奢らせてな」 「いいのいいの。その、よかったね」 色んな意味を含めてそう言うと、桜河くんはかわいい笑顔で大きく頷いてくれた。そこでちょうど、HRの予鈴が鳴る。私は桜河くんと放課後出かけられる喜びと、ラブさんなる彼のお友達に対するショックで頭をグルグルさせながら、一限目の古文の授業に挑んだのだった。勿論内容はさっぱりだし、隣で機嫌の良さそうな桜河くんの、そのご機嫌な意味を知りたくてモヤモヤと過ごすのだった。 『ラブはん昨日は遅くまで相談乗ってくれておおきに。今日誘えたわ』 『こはくっちさすが!行動はやーい!じゃあ今日放課後デートするんだね!頑張って』 桜河くんが同い年の男の子であるラブさんとこんなやり取りをスマホでしていたなんて、勿論私は知る由もない。 [prev][next] [Back] |