TOP > 更新履歴 > 記事

ジュンのハイエナ王子パロ・2
2025/11/04 21:14

 さて、獣人の国にもお誕生日という概念が存在するらしい。私はそれをなんとなく夫であるハイエナ王子、ジュンさんのお友達である茨さんから聞いていて、贈り物をどうするか悩んでいる最中だった。

 人間界の贈り物の定番といえばお菓子やご馳走、それから祝いの歌。あとは本人が好きそうな小物をあげるのが定番だが、果たして獣人界では誕生日の贈り物とはどんなものなのだろう。

「そんなの、奥方さまがたくさん着飾ればいいんですよォ」

 サーバル型の獣人である藍良くんはしっぽを楽しげに振りながら言った。今日は特に暑いので庭の小さな池に足をつけて涼んでいるのだが、私の護衛役として背後に立っていた藍良くんがあまりにも暑そうでへばっちゃいそうだったので、折角だから一緒に涼まないかと誘った。屈託のない顔で「いいのォ?」なんて言われたら笑顔で頷くしかない。私は元々庶民だし、この国の王さまは人間界の王とは少し様子が違うようだから別にいいだろう。

「え〜、そんなのお祝いになるのかなぁ……」

 水を弾くように素足をバタつかせれば、藍良くんはかわいいお顔でニンマリ笑った。

「なるよォ。だって王子、奥方さまのこと大好きだもん」
「違うの。あれは……」

 そもそもここに嫁いだ理由も、王子であるジュンさんが人間界に来た時にたまたますれ違った私の汗の匂いが気に入ったから、というとてもじゃないが人に言えない理由なのだ。恥ずかしいから一目惚れしてもらったことにしているが、正しくは一嗅ぎ惚れである。

「でもでも、奥方さまってこの国だとかなり厚着してるでしょ?こっちの服は確かに布が少ないけど、沢山着飾っておめでとうを言えば王子すごく喜ぶと思います!」

 うんうん!ラブ〜い!と独特の表現で背中を押してくれる藍良くんに、私は自分の着ている服を見た。至って普通の人間界ではありふれたドレスだと思うが、確かにこの国の人たちは皆露出が多い。夫であるジュンさんだって、常にお腹が露出している。

「う〜ん。だって私、この国の人たちみたいにスタイル良くないもの。みんな出せるお腹してるじゃない」

 獣人の人たちは皆、露出なんてなんのその、といったスタイルだ。そもそも筋肉量が全然違う。反面私は腹筋の線なんて表に出たことすらない。

「大丈夫だよォ。奥方さま、小さくてラブいもん」

 そして基本、獣人たちのかわいいの基準は小さい=かわいいなのだ。ああいう露出の高い衣装は背の高い人がかっこよく着こなすものだと思っているので、その両極端にいる私に自信が降って湧いてくるはずもない。


「何か悩みですか?」

 夜、いつものようにベッドに腰掛けてお茶を飲んでいると、夫であるジュンさんが床に座り込み、膝に頭を乗せてきた。条件反射で彼の頭を撫でてかわいい耳を少し揉んであげると、彼は嬉しそうに太腿に頬擦りしてくる。尻尾が楽しそうに動いているのもかわいい。

「ううん。なんでもない」
「昼間、白鳥くんと楽しそうにしてましたね。何話してたんですか?」
「あぁ、ただ世間話してただけだよ。見てたなら来てくれればよかったのに」
「ちょうど鍛錬中でした」
「じゃあ難しいね」

 話題がジュンさんの誕生日の話だったので、私は自然に話を流した。すっかりリラックスしている様子の彼の耳を少し掻いて、ペタンコのそれに追い討ちをかける。

「……ね、ジュンさんもやっぱり、この国の衣装みたいな方が好き?」

 なんとかオブラートに被せてそう言うと、ジュンさんがいきなり顔を上げた。先ほどまでペタンコだった耳が、ピンと伸びている。

「着てくれるんですか?!」
「いや、えぇっと、うぅん……」

 けれど私の反応を見て、私が乗り気でない事に気づいたのだろう。再び私の膝に顔を乗せると「無理しないでいいんすよぉ」と呟く。

「きっと人間にとってはかなり勇気のいる服装ですよねぇ〜。あんたが着たい服着てるのが、オレは一番嬉しいです」
「そ、そっか」

 さて、私が彼の誕生日に贈るものが決まってしまった。とにかくお洒落さんな藍良くん辺りに相談してみよう。


 数日後、私は沢山の侍女に囲まれながら悲鳴をあげていた。藍良くんに相談した結果、侍女たちに全力で着飾られたのである。

「いやいやすみません下乳出すのはちょっと」
「大丈夫です!かわいいですよ〜」
「えっ、」

 この国のかわいいはすなわち小さいである。ほんのちょっとだけその単語にへこみながらも、この国のセンスがわからない私はただひたすらに着せ替え人形になるしかない。パンツは見えても大丈夫なデザインのものになり、凄まじいスリットのスカートと下乳が完全に見えている上着を着た。ふと見たアクセサリーのタッセルに使われている毛の色に見覚えがあって侍女の方を見ると、にっこり笑って「王子の尻尾の毛を拝借しました」と言われた。いつ拝借したのだろうか。

 そんなこんなですっかりこの国の衣装に袖、否袖など無いので腕を通した私は、王子の誕生祝いの宴にその格好で参加することになった。来客にこっそり紛れていると、玉座で一人、祝いの言葉に礼を返しつつもどこかソワソワしている王子の姿が目に入る。あれは完全に私を探している。そして恐らく匂いで見つかって、王子と目が合った。けれど私の前にはあと2人ほど先に挨拶する人がいるので大人しくしていると、玉座にいる王子の尻尾の様子がおかしい。ピンと真上に伸ばしたいのを力で必死に抑えているように、かわいそうな尻尾は小刻みに震えている。

「お誕生日おめでとうございます。これからも王子のご健勝、それから獣人国の繁栄と、人間国との調和をこの身をもってお祈り致します」

 ようやく自分の番が来たので元々考えておいた、いかにも人間国代表みたいな顔をした私が獣人国の衣装を着て挨拶をする。これは外交的にも効果的かもしれないと今更ながら思いつつ、そのまま王子の隣の席に座った。

「あんた、」
「どう?似合う?」
「……」

 黙ってしまった。その沈黙には何が含まれているのだと心配になりながら、祝いの宴はとりあえず食事を楽しむ自由な時間になる。獣人の人たちはみんなよく食べてよく飲む。堅苦しいことは放っておいて、とにかく騒げ騒げ、なのだ。それもまた楽しくて、つくづく嫁いでよかったと思う。

「ちょっといいですか」

 ちょうど王宮音楽家のレオさんが楽しげに楽器の演奏を始めて3曲目辺りで、ジュンさんが席を立った。私は不安になりながら彼について行き、手を引かれて控えの間に急ぐ。侍女を部屋から出し、私とジュンさん二人きりになると、私は意を決して彼に聞いた。

「似合わな、ぐぇっ」

 しかし私の言葉は最後まで届かなかった。凄まじい圧と力で抱きつかれたのである。答えはその腕の力で明白で、頭の隅でラブ〜い!とキャッキャしている藍良さんにお礼を言った。

「かわいい、かわいい!かわいいです!えっ、本当に着てくれたんですか!」
「に、にあう?」
「すげ〜似合う……!」

 よかった。と言う言葉は彼の胸筋と腕の筋肉に潰されてどこかへ弾け飛んだ。一度体を離して、ジュンさんは私を見る。首にしていたチョーカーについたタッセルに気が付いたようだ。

「オレの匂いがする……!」
「そうそうジュンさんの尻尾の毛だよ。侍女に取られなかった?」
「取られました。何も言われずに」

 侍女に何も理由を言われずに尻尾の毛を取られる私の夫がなんだかかわいいが、とにかく大いに喜んでもらえたようで、私としては大成功と言っていいだろう。

「この国だとお誕生日をどう祝ってるかわからなくて、これくらいしか出来なくてごめんね」
「そんな、嬉しいっすよぉ〜。ありがとうございます。最高のプレゼントです」

 ついでにフンフン人の匂いを嗅いでいるジュンさんを自然に引き剥がして、私たちは宴へと戻った。宴の間への道すがら、小さな声で彼が呟く。

「でも普段はいつもの服でいいですからね。もったいない」
「……?」

 腰に手を回したままお腹をふにふに摘んでくるジュンさんの手を、今日だけは叩かないでいてあげた。筋トレでもしようかなと、心に誓った嫁いで一年目の王子の誕生日なのである。



[prev][next]
[Back]

Copyright (C) 2016 PB All Rights Reserved.