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探偵夏目と助手の爆弾解除
2025/11/04 21:45

「君がやってくれるのなラ、ボクには何の不安もないヨ」

 手の震えを必死に抑える代わりに、不規則な呼吸を重ねる私に夏目所長はそう言った。

 手元には抱えられるくらいの大きさの真っ黒な箱、そこにはいくつものコードが絡まっていて、黒い鉄板が小さなネジで留められている箇所もある。

 爆弾だった。探偵事務所を営む夏目所長と私が不運にも巻き込まれたとある屋敷の連続殺人事件。必死に手がかりを手繰り寄せて犯人を追い詰めた矢先、夏目所長が犯人に捕まった。そして、現在彼は椅子に座らされて両手足をワイヤーで縛られており、その先にはこの爆弾が繋がれているのを発見したのである。屋敷の冷たい地下の牢獄に仕掛けられた爆弾が炸裂すれば、この屋敷も全壊するだろう。上にいる人々を避難させる時間もない。両手が空いてるのは私だけなのだ。助手の私が、やらなければならない。

「大丈夫。そのテの爆弾は解除方法も一貫しているかラ。ボクの指示に従っテ」
「は、は、はい」
「落ち着いテ。指先は動ク?」
「うご、きます。大丈夫です。大丈夫……所長は、絶対、たす、たすけますから」
「ウン、ありがとウ。じゃあまずハ、その鉄板を塞いでるネジを外そウ。まずはネジをよく観察しテ」
「はい」

 爆弾のせいで身動きの取れない所長の代わりに四隅に止まっている小さなネジにペンライトを当てて見てみると、一つだけ異様に摩耗しているネジがあった。

「じゃあそれは一番最後ダ。そのネジと対極線にあル……そう、そのネジから時計周りニ」
「はい」

 ネジを外して中のコードを切って、振動感知機には凝固剤を流し込む。解除道具一式がわざと部屋の隅に置かれていたのは、犯人が面白半分でこの爆弾を仕掛けた証拠だった。人の命を弄ぶ外道のやり口に、叫び出したいくらいの怒りが迸る。

「上手だヨ、いい子だネ。もう少しだから頑張れル?」
「は、はい……ひっ、ひっ、」

 緊張のあまり過呼吸になりかける私に、所長はわざと優しい声で言う。

「ボクが付いてル、安心しテ」
「所長、所長……っ!」
「……うん、ここにいるかラ。君のそばにいル」

 泣かないように、必死に目に力を入れた。万が一爆弾に涙が落ちて爆破したら、死んでも死に切れない。不意に神経を研ぎ澄ませているからか、私の耳にぽたっと水が滴るような音が聞こえた。視線だけでその音の元を辿ると、所長の手の先からポタポタと血が滴っているのが見えたのだ。きつくワイヤーで縛られた手首が、既に血溜まりが出来るほどに出血している。傷口に硬いワイヤーが深く食い込んでいる。叫び出したいほどの激痛に堪えて、所長は私を落ち着かせる為に汗一つかかず、眉間に皺一つ寄せずにこんなに優しい声で支えてくれているのだ。

 私は先ほどよりも指先に神経を集中させた。早くここから抜け出して、所長の怪我を治さなくてはと思ったら、過呼吸になっている場合ではないのだ。

「後はこのテンキーで答えを打ち込んで……0+0……?」

 普通に答えるならば、正解は0である。けれど所長は違う、と呟いた。 

「1ダ。犯人は草刈教授の研究に盲信していタ。彼の研究ハ……」
「無から有を……死者を蘇生する、研究……」

 私は迷わず1を押した。その瞬間、ピピッと小さな電子音を立ててモニターが暗転し、爆弾が停止した。

「解除成功ダ。よく頑張ったネ」

 私はその場で腰が抜けて、へたりこんだ。全身が震えて声が出ない。再び荒れる呼吸に、汗が噴き出て止まらなくなる。あまりの恐怖に気絶しそうだった。

「頑張ってくれてありがとウ」

 そこで私は彼の手の出血を思い出す。

「所長!早く手を外さないと……!」
「ン?あぁ……すっかり忘れてタ」
「ワイヤーを外します!」

 私は先ほどまで爆弾解除に使っていたニッパーを手にした。早く彼と外に出て、犯人を追い詰めなくては。



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