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ジュンとAM10:00
2024/02/20 21:56

 ドライヤーで髪を乾かし終えてふと時計を見たら、ちょうど10時を指していた。段々朝の白い新鮮な光が太陽が真上にいくにつれて柔らかくなってきたのか、レースのカーテン越しの日差しは少しまろい。
 ジュンは使っていたバスタオルを洗濯機へと入れると、ゆっくりソファに腰掛けた。ローテーブルに置いたスマホを一度見てみるも、彼女から連絡はない。まだ帰ってくる時間がわからないのだろうかと、ジュンは一人拗ねるように唇を尖らせた。

 それもそのはず、今日は久しぶりに彼女とオフが重なり彼女の家に泊まりにきたというのに、今日の朝になって突然彼女は半日仕事が入ってしまったと出かけていってしまったのだ。

 朝バタバタと家を出ていく彼女から言われたことは二つ。午後には帰ってくるということと、帰れる時間がわかったら連絡するというものなのでジュンは大人しく頷いた。仕事なのは仕方がないし、半日で帰ってくるならあと半日は一緒にいられるのだから少し物足りないけれど構わない。そう思ってジュンはランニングと筋トレを終えて、さっさとシャワーを浴びたが10時の時点で既にやろうと思っていた事を全て終えてしまった。

「……午後って、何時ぐらいのことだろ」

 ぽつりと呟いてから、ジュンはもう一度スマホのホームボタンを押して彼女から連絡が来ていないか見るも、残念ながら彼女からの連絡どころか通知は一件も来ていなかった。まだ仕事の目処が立たないのだろうか。

 ジュンはスマホをぽい、とソファの上に放ると、裸足のままぺたぺたと床を鳴らして風呂場の方へと戻った。自分が使ったバスタオルやトレーニングウェアを洗濯しておこうと思ったのだ。
 そこでふと、ジュンはひらめく。
 彼女だって仕事ばかりで疲れているはずだ。そこでジュンが少しでも家事をやっておけば彼女も喜ぶのではないか、という天啓が降ってきたのである。

「そうと決まれば」

 ジュンは洗濯機のすぐ横にある籠に溜まっている洗濯物をざっと確認してから洗濯機を回した。彼女から下着はネットに入れるのだと教わっていたのでその辺りもぬかりない。ゴウンゴウンと音を立てて回り始めた洗濯機から一旦離れると、今度は部屋の窓を開けた。まだ春には早く、冷たく固い風が部屋の中にするりと入り込んでくる。部屋の換気がてら簡単に掃除機を掛けて、ソファの下にピアスが一つ落ちているのを発見した。きっと失くしたと思っているだろうな。と小さく笑ってそれをポケットに入れる。
 ついでにさりげなく、本当にさりげなく自分のものではない男の持ち物が転がっていないかドキドキしながら確認したけれど、やはりそういった物は影すらなかった。ついつい安堵の息を吐いてしまう。

「疑ってごめん……」

 本人はいないのにジュンは一人ぐにゃりとうなだれた。少しでも疑う心があった自分が情けないと同時に、いかに自分が彼女に夢中であるかを自覚し直してしまい、恥ずかしくなって一人赤面してしまう。
 反省の意味も込めて丁寧に掃除機を掛けてから、ついでにフローリングの拭き掃除までやっていると洗濯が終わったようだった。その前にスマホを確認する。

『ジュンくんごめんね!そろそろ帰れそう!』
「おっ!」

 待ちに待った彼女からのメッセージはちょうど3分前に届いていた。そろそろ帰れると言うのなら、昼ご飯は家で食べられるだろう。ジュンはすぐ返信を返す。彼女からの連絡を待ち焦がれていたのがバレバレだと恥ずかしいので普段なら少し時間を空けたりするけれど、今日はお構いなしである。とにかく早く帰ってきてほしい。

『了解!お昼ご飯作って待ってます』

 するとすぐに彼女がメッセージに既読を付けた。それだけで嬉しくなって、先ほどの鬱屈とした感情はあっさりと吹き飛ぶ。 彼女からのお礼のメッセージを見てから、ジュンは「よし!」と一人気合いを入れて、とりあえず洗濯物を干すべく洗濯機へと向かった。自分の出した洗濯物と彼女が出した洗濯物を手慣れた様子で干せるのは、ひとえに寮生活のおかげだろう。 

 ただ一つだけ違うのは、彼女の下着を干すのに妙にドキマギしてしまう辺りだけだろう。つい「こんな下着持ってたんだ」などと思いつつその思考を吹き飛ばそうと、今日の昼食のメニューをまるでお経を唱えるように考える。昼ご飯ならチャーハン、パスタ、ラーメン……と料理を思い浮かべてどうにか気を散らしていると、タイミングを図ったかのようにお腹が鳴った。

「……飯、作ろ」

 半日とはいえ疲れて帰ってきた彼女に何を食べさせてやろう。冷蔵庫を確認して、あり物で工夫して美味しいものを食べさせてやりたい。「美味しい」と笑う彼女の笑顔が見たいと一人口元を緩めながら、ジュンはキッチンへと足を運んだのである。


「ただいま〜!ジュンくんごめんね。疲れた〜」
「お帰りなさい。昼飯できてるっすよ」

 帰ってきた彼女はジュンの言葉に「嬉しい!ありがとう!」とほっとするような笑顔で言ってくれる。それだけで嬉しいのに、彼女はジュンが掃除機を掛けたことも、手を洗いに洗面所に行った時に洗濯物を干したことにも気が付いてくれた。

「ありがとうありがとうジュンくん!ごめんね。家事なんてやらせちゃって」
「全然。時間あったからついでですよ」

 あとこれ。とソファの下から出てきたピアスを渡してこれで百店満点だ。と、ジュンは少し珍しい休日を堪能したのだった。

「待ってジュンくん私が日頃履いてるパンツ見た?」
「はぁ……まぁ」
「あぁあ!!いつも適当なパンツ履いてるのばれちゃった!!」

 むしろ自分と会う時は気合いを入れた下着を着けてくれていたことが明らかになって、ジュンの多幸感は上昇しつつある。



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