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こはくとニューディ事務員
2024/03/19 20:03

 ようやく一息入れられる、といった風にデスクに突っ伏した副所長の青葉さんにコーヒーでも淹れてくるか。と席を立った所で、事務所の入り口付近でぴょこぴょことこちらを窺ってる桃色の髪を見つけた私は脊髄反射で声を掛けた。仕事も1日の後半に差し掛かり始めて、ようやく昼食後の眠気が飛んできた午後3時半のことである。

「こんにちは桜河くん。Double Faceの用事?」

 ぴょこぴょことしていた桃色の髪、もとい桜河こはくくんは私に気がつくと少しホッとしたように微笑んで挨拶を返してくれた。マーブルキャストの時に私も一応少しではあるが案件に関わったので、顔を覚えていてくれたのだろう。

「あ、こんにちは。せやねん。でもわしはコズプロの所属でもあるから堂々と事務所に入ってええんかっち思って……」

 そう困ったように目を細めた桜河くんに、私は手をひらひらと振る。相変わらず低姿勢で、謙虚な子だ。

「いいんだよ。桜河くんはうちの所属でもあるんだから堂々と入っておいで。お仕事探し?今DFって何か案件持ってたっけ?」

 確か彼らはマネージャーを配置させていないので、三毛縞くんと桜河くんが分担してセルフプロデュースをしていたはずである。DFは他のアイドルたちと少しだけ立場や活動動機が違うので、第三者が扱うには少し難しいというのが大きな理由だろう。

「今日はこの前決まったCMの絵コンテもらいに来たんよ。斑はんが今ソロの仕事でロケに行ってるさかい、わしだけでも先にもろておこうと思って……」

 そこで私はピンときた。確か二人にコーヒーのCMのオファーが来ていた気がする。ある意味ブラックな二人にはぴったりですね〜。と、青葉さんがブラックジョークをかましていたのを覚えている。

「あぁ。それなら青葉さんが持っていた気がする……座ってちょっと待っててね」

 青葉さんにコーヒーを持っていくついでに彼から桜河くんの分の絵コンテをもらうと、桜河くんは居心地悪そうに談話テーブルに座っていた。

「はい桜河くん。絵コンテどうぞ」

 ホチキス留めされた絵コンテを渡すと、桜河くんが目的を達成したからか少しホッとしたような顔をした。やはり普段あまり来ない事務所は緊張するのだろうか。

「おおきに」
「三毛縞くんにはこっち来た時渡しておくね」
「助かるわぁ。斑はん、ほんま捕まらんくて」
「わかるよ。いつの間にかどっか行ってるよね。三毛縞くんて」
「せやねん。捉え所のないお人じゃ」

 彼の肩の力が少し抜けたような気がしたので、その隙を狙って私はそっとお茶を出した。折角ニューディの所属でもあるんだから、コズプロだけではなくこちらにも気軽に来て欲しいと思ったのだ。

「よかったらここで絵コンテチェックしていって。質問があれば、今は青葉さんいるし。これでも食べながらさ」

 ついでにもらった和菓子を一つ彼の前に置く。すると桜河くんはパッと表情を明るくした。

「ええの?」
「もちろんだよ」

 丁寧にお礼を言った桜河くんは、お茶と一緒にパクッとお菓子を一口かじった。味わうように咀嚼している。

「甘いもの好きなの?」
 好奇心が勝って思わず聞いてみれば、桜河くんはカッと顔を赤くした。
「子どもっぽいやろか……」

 私はぶんぶんと首を横に振る。正直な所今抱えた感情は「かわいい〜!!」の一択だけれど、ここでその言葉を言うのは逆効果だ。

「ううん。私も甘いもの好きなの。それ美味しいよね」

 彼に同調するように言うと、桜河くんは大きく頷いた。私は彼に伝えるべくことを、さりげなく口に乗せる。

「お菓子食べるだけでもいいから、またいつでも来てね」

 桜河くんはニューディにとっても大事なアイドルだからね。と少し気恥ずかしかったけど口に出せば、桜河くんは照れるように目線を一度外してから、花が開くように笑ってくれた。

「事務のお姉はん、おおきに」
「い、いいんだよ。もっと頼ってね」

 推せる。
 最強に推せる。桜河こはくくん。
 私はぎこちなく返事をすると何かあったら呼ぶよう言って彼の元を離れた。今の状態で彼の近くにいると、うっかりとよからぬ失言をしてしまいそうな気がしたのである。バクバク鳴る心臓は、恋とかそういった類ではない。多分あれだ。萌えってやつだ。


「あの〜、俺ももっと頼っていいですか?」
「はいもちろん〜」

 少し休憩して復活したらしき青葉さんが、私の心を読んだかのようにメールを複数転送してきた。その中の一通は三毛縞くんからで、例の絵コンテをスキャンしてPDF化してメールで送ってくれと連絡が来たようである。
 さぁ午後も仕事、頑張ろう。
 ついでに家に帰ったら、Crazy:BのCD全部ダウンロードしよう。



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