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巽と一緒に映え料理
2024/08/09 22:58

「映えたいの」
「バエタイノ?」

 久しぶりにオフになった巽くんが遊びに来てくれた休日、突如私が言った言葉をとりあえず復唱したはいいけど全く理解出来なかった様子の巽くんがこてんと首を傾げたので、私は無言で自分のスマホを見せた。そこには友達のSNSの画面が映り、その日のネイルやカフェで撮った美味しそうな料理の写真がおしゃれに載っている。普段はあまり興味ない風を装っている私からしてもなんとなく羨ましいのだ。

「別に、バズりたいとかはないの。でもたまには女子を満喫したい」
「なるほど」

 ここでようやく私の最初の言葉の意図を掴んだ巽くんがうんうんと頷いた。彼が鉄壁のアイドルであることはわかっているけれど、正直SNSとかにはとても強いようには見えない。困らせてしまうかな、と思いつつも彼の答えを待った。

「こういったものでしたら藍良さんが詳しいのすが、俺は疎い方ですな。お役に立てそうになくて……いえ、」

 一度は眉を下げた巽くんだったけれど、巽くんはふと何かを思いついたようで、ぽんと手を叩いた。こんなにかっこいいのにリアクションは随分と古典的なところが彼の愛すべき点である。

「でしたらこういうのはいかがですか?」


 というわけで彼と私は今、エプロンをつけてキッチンにいる。冷蔵庫から出したのは野菜や卵、それから今日巽くんが買ってきてくれたベーグルである。

「ドラマの再現料理!いいじゃんさすが巽くん!」
「ベーグルもドラマで使ったものですし、再現度は完璧ですな。おみやげに持ってきてよかったです」

 つい最近彼はドラマの主演を果たした。都会に疲れたOLが田舎で暮らし始め、そこでカフェを経営する巽くんの演じる若きマスターと知り合い恋に落ちるというものだ。ドラマ内では実際に巽くんが軽食を作るシーンも映っていて、レシピを覚えたのだという。今日はたまたまそのドラマで食べたら美味しかったベーグル専門店のベーグルを手みやげにしてきてくれたのである。

「あのドラマよかったよねぇ。カフェが週に一度だけバーになるのとかちょっとえっちな設定で最高だった」
「……?」

 私としては渾身の感想だったのだけれど、巽くんが微笑みながら困ってしまったので、なかったことにして料理に集中することにする。4話で彼が作っていたメニューはスクランブルエッグとハムのベーグルサンドと、それからミネストローネだ。

「では俺はベーグルの方を作りますのでスープをお願いします」
「あっ、はい」

 二人で作ろうなんて珍しいことを言い出すものだからちょっといちゃいちゃしながらやるのかと思いきや、ただの作業分担だった。そんな所も愛おしいので私の方ももはや末期である。ちなみにドラマのキスシーンは悔しすぎて見ていない。巽くんには「相変わらず上手だったよ」という謎のエア感想を送ったが、やはり彼を困らせた。

 ミネストローネの具材を真面目に切っていると、巽くんがスマホをいじりながら横で何かやっている。気になったのでそちらを見ると、にこにこと機嫌よさそうな笑顔が返ってきた。

「なに?」
「いえ。今ベーグルサンドを作ってしまうと冷めてしまいそうなので」
「確かに」

 スープは根菜を煮るので、少し時間がかかる。私は彼の言葉に納得すると、すぐさま作業に戻った。最初は巽くんとの共同作業に期待したものだが、いざ料理を始めたら私もそちらに集中してしまって彼にちょっかいを出す余裕なんてなかった。

「……調味料、なに?」
「コンソメと塩こしょう、あとにんにくがあれば」
「ある」
「具材を炒める際はオリーブオイルでお願いします」
「了解」

 もはやひたすら淡々とした調理作業である。具材を炒めで水を加え、調味料を入れて煮込む。美味しそうな匂いがしてきた辺りでようやく巽くんも作業に入った。私の予備エプロン(あえてかわいいデザインの方を彼に渡した)を付けて、まさにドラマのような手つきで料理をしていく彼がかっこよくて思わず横から写真をカシャカシャ撮れば、巽くんが何気なくこちらを向いてウインクをした。とんでもないファンサービスである。

「えっ、もっかいやって!もっかい!」
「卵が焦げるのでだめです」
「はい」

 大人しく引き下がる。そもそも私の我が儘を叶えるためにわざわざ料理してくれていることを思い出したのだ。
 スープの野菜が柔らかくなる頃、ちょうどベーグルサンドもできあがった。私は家にある一番おしゃれな皿を取りだして、ついでにかわいい紙ナプキンも敷いた。

「これは、かわいいですな」
「でしょ?ちょっと前に使ったやつの残りだけど」
「お友達とパーティーでも?」
「まぁ、そんなとこ」

 正確にはお菓子をたくさん開けて酒盛りした時にせめてかわいいものを使おうと買っただけだ。恥ずかしいのでパーティーということにしておく。

「今度俺ともしましょうね」
「えっ、パーティーを?」

 そう言うと彼は頷いた。何かを私と一緒にしたいと思ってくれるのがくすぐったいので私は今度ねと返しておくと、ととても嬉しそうに笑ってくれたのでつい心臓をバクバクとさせてしまう。

「そうだね。私も作れる料理のレパートリー増やしとく」
「はい。楽しみです」
「う、うん。私も」

 なんだか気恥ずかしい空気になりそうだったので、私はとりあえず焼きたてのベーグルを皿に乗せて慎重に盛りつける。スープもきれいによそえば完璧なドラマの再現料理の完成だ。

「わ、すご〜い……四話のベーグルサンドだぁ」
「きれいにできましたな。スープもおいしそうです」

 ランチョンマットを敷いて、お皿とカップのバランスを考えて写真を撮れば、まさにドラマの再現料理が完成した。早速それをSNSにアップすれば私の野望は達成である。友達には彼氏はいないと言ってあるのであくまで一人分のそれを載せた。

「調理者まで再現だから、究極の再現料理だよねぇ」

 のんきにそう言えば、巽くんはさっそく私が作ったスープを食べていた。手料理を食べてもらったのは初めてではないけれど、なんとなく緊張する。

「ど、どう?」
「もちろんおいしいです」

 あくまで上品にだけどモリモリご飯を食べてくれる巽くんを見てたら正直映えとか友達へのちょっとした見栄とか、そういうものはどこかへ吹き飛んでしまった。大好きな人が自分の作った料理を美味しそうに食べて笑顔になってくれるのならそれが一番嬉しい。私にはおしゃれなネイルをする技術もないし、こんなに写真映えを意識した料理は盛り付け含めて毎回作れそうにない。けれど巽くんが美味しいと言ってくれるならそれが一番満たされるのである。


 後日、SNSに載せた写真は友達からコメントが来ていた。美味しそう!とかすごい!ではなく、どうしたの?!という辺りやはり私にこういった写真を撮るのは向いてないということだろう。
 そんな中、巽くんが突然こんなメッセージをくれた。

『この前は楽しい時間をありがとうございました。また一緒に料理を作りたいです』

 あの作業分担は彼的には恋人とのラブラブ料理に含まれていたのか、などと表面上は思いつつも、顔をニヤつかせながら続きを読む。

『あの日、俺も映え写真を撮ったのでよかったら見てください。最近のお気に入りです』
「写真?」

 内容が気になり、指を動かしてスクロールを下にする。するとそこにはエプロン姿の私が真剣な顔で野菜を刻む姿があった。

「ぎゃっ!」

 更にポンポンと写真が送られてくる。私が笑ってる顔を始めとした、ふとした瞬間の写真がいくつも送られてきた。

「ちょっと、ちょっと待って!」

 その場に巽くんはいないのにそう叫べば、まるでその声を聞いたかのように巽くんからメッセージが来た。

『また宝物が増えました』
『あなたのおかげです』

 私はあの人に大事にされているんだ、というのが痛いほどわかる。それが嬉しくて、でもほんのちょっぴり切なくて。私はすぐにでも巽くんに会いたい気持ちを抑えながらありきたりな愛の言葉を彼に贈るのだった。



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