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英智にプレゼントをもらう
2024/08/25 23:23

 ただひたすらに、あれも欲しいこれも欲しいとねだる物語によく描かれるような、ワガママな側面のマリーアントワネットになればいいだけなのである。
 マンションの宅配ボックスに届き物があるとのことなので大人しく取りに行くと、送り状の荷主が「天祥院英智」となっていた。筆跡を見るに、本人が自分で書いたようである。忙しいのにわざわざ手書きしたんだ。などと思いつつ片手で持てるくらいの箱を大人しく持ち帰って、家に帰ってそれを開けてみた。

「あ、これかぁ」

 中にはESビル内にあるというカフェのオリジナルブレンドのハーブティーの箱が4つ、ギフト用の大きな箱にきっちり詰めて入っていた。確か以前英智くんがこのお茶の監修をしたと話した時に私も飲みたいと言ったことを覚えていたのだろう。しののんブレンドティーという可愛い名前のブレンドティーを私は食後に飲むと決め、早速恋人である英智くんに荷物を受け取った旨をメッセージアプリで送った。

 お茶を受け取った事とお礼をシンプルに書いて送ると、ものすごく珍しくすぐ既読がついた。加えて着信まで入ったのでものの2コールほどで出ると「やぁ」と少し軽快そうないつもの声が聞こえた。

「こんばんは英智くん。お仕事大丈夫?」
「こんばんは。さすがの僕だって365日24時間仕事をしているわけではないよ。まぁ今絶賛残業中だけどね。ちょうど一人のオフィスが寂しくなった所だよ」

 心配して言ったのに皮肉で返された。けれどこれが彼からの大丈夫というサインであると判断しスルーすると、早速本題を持ちかける。

「さっきメッセージに書いたけどお茶ありがとう。早速後で飲むね」
「喜んでくれたならよかった。それを飲む時はぜひ僕を思い出してね」
「う、うんそうするよ……」

 1箱に入ってるティーパックは10個。更にそれが4つセットで送られてきたので、少なくとも40回は英智くんのことを想う必要が出てきた。王子様のような容姿のわりに圧の強いオーラを40回。そこそこにハイカロリーである。

「でね、時間があるから早速の相談なんだけど、次は何が欲しい?」
「あ、え、え〜っと。考えてなかったな……う〜ん、」

 彼からの連絡はここ最近、大多数がこの質問だった。何が欲しい?何でもいいよ。あ、でもさすがに常識の範囲内の金額のものを頼むよ。そう何度もマンションを買い与えるわけにはいかないから。とのことである。そんなに不動産を持つ趣味は無いのでいつもは無難に美味しいお菓子とか、新作のお化粧品を1点とかその程度のおねだりをするのが私の定番である。

「あ、じゃあね、英智くんが使ってるシャンプー。今まで使ってたやつ、髪に合わないなって思って変えようと思ってたの。英智くんの髪いい匂いだから同じの欲しい」
「……仰せのままにお姫様、と言ったらKnightsみたいだね。でもまぁいいや。君は僕のお姫様だし」
「はは、あま〜い……」
「君の方が先に殺し文句を吐いたんだからお返しだよ。かわいい人」
「ひぃ〜」

 仕事帰りの疲れた脳にこれは過剰もいい所だと悲鳴を上げれば、英智くんは楽しそうに笑った。彼も疲れているのかなんなのか、いつもより言葉の濃度が濃くてちょっとだけ困ってしまう。

「まぁいいや、シャンプーはまた近いうち送るね」
「うん待ってる。あ、でも時間ある時でいいからね。お茶もらったばかりだし」

 そう付け足すと、英智くんが少し寂しそうに笑った。なので私はちゃんと彼が納得する為の答えを用意する。

「忘れないから大丈夫だよ。私の彼氏様、忘れようったってそうそう忘れられないし。ハイカロリーすぎて」
「それは褒め言葉として受け取ってもいいのかい?」
「いいよ」

 今度は少し安心したように笑ったので安心していたら、そこでちょうど遠くから扉をノックするような音が聞こえてきた。彼の部下が部屋にやってきたようである。

「あぁ、仕事を再開させなきゃ。じゃあまたね。良い夢を」
「英智くんもちゃんと今日中に寝るんだよ。おやすみ」

 そっと通話を終了させて、テーブルの上のお茶の詰め合わせを見た。先々週は新しいピアス、その前は珍しい銘柄のワインと、彼の贈り物は会えない日が長くなればなるほど増えていく。何が欲しいと聞かれれば素直に欲しいものを答えてそれをもらったり、たまに彼自身が選んだ物が少しずつ部屋の中に増えていった。きっと他人から見たら私たちの関係は、まるで物を買ってもらうだけのそれに見えるかもしれない。

 でも私はそんな彼からの申し出を断らないようにしている。もちろん最初はお金持ちである彼の財力を私が好きになったと思われているようで腹立たしくて、断ったり怒ったりもした。けれど時間が経つにつれて、彼にとっては私への贈り物が精一杯の愛情表現で、一生懸命自分のことを忘れないでと訴えているということが私にもわかるようになっていた。

 お金を使わせてしまっているのは確かではあるけれど、私は決して彼の申し出を断らない。むしろ欲しいものを探してあれが欲しいこれが欲しいとまるでマリーアントワネットのようにわがままでいる事が、彼にとっては救いなのである。私の事が好きだと言ってくれる彼の愛情表現を、お金で繋ぎ留めたいのかなどと貶さない。お金なんて使わなくていいと否定もしない。ただありがとうと伝えて、私も好きだと言葉で返せばいいのだ。

 インターネットで、最近はマリーアントワネットはそこまでの愚妃ではなく、彼女が浪費した額はほんの一部だった、むしろ王妃としての功績も大きかったなんて説も見た。彼にとってのマリーアントワネットであれるよう、私も自分を磨いていこうと胸に決めるのである。


 けれど後日届いた英智くんとお揃いのシャンプーセットの値段をこっそり調べたらものすごく高くて、さすがにそれをねだったのは後悔した。

「そう?」

 電話をした際さりげなくその話題を出したらたったの2文字で解決してしまったのは、さすがに後ろめたい。



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