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泉と二度寝
2024/02/20 20:46

 何度かスマホのバイブレーションが鳴った気がしたけれど、目を開けて確認するには少しばかり頭と体を動かす力が足りなかった。私を呼ぶように何度も鳴り続ける着信に応えようにも操作不能な眠気に勝つことが出来ず、私はその小さな振動に一度「ごめん」と呟いたか否かを思い出すよりも早く、二度寝という罠にまんまと引っかかってしまったのだった。

「そろそろ起きられる?」

 意識が途切れて暫く、何度か誰かに体を揺さぶられて今度こそ目が覚めた。ハッと一瞬で意識が浮上し、先ほどの声の主を更にもう一瞬で判断し、その声がした方を見た。
 案の定、泉くんは少し困った顔をしたまま私の方を見つめていた。
 あぁ。やってしまった。

「あ!あぁ!ご、ご、ごめん泉くん!!私、すっかり寝ちゃって……」

 今日は数ヶ月ぶりに泉くんに時間の空きが出来たからって遊びに来てくれる予定だった。元々私の家の合い鍵を持ってもらっているから私がいなくても家に入るのは可能だけれど、恐らく先ほど鳴っていたような気がするスマホの着信は泉くんだ。家の前に着いたよ。といった感じの連絡をくれたに違いない。

「いや鍵持ってるから別にいいけど、家入ったらあんたソファから落っこちてうつ伏せで寝てるから、焦ったっていうか……」
「うわ、ほんとごめん……爆睡だったよ」

 今私がソファにちゃんと横たわり、体にブランケットまで掛けているのは確実に泉くんの手によるものだ。
 予想するに、ローテーブルにあるスマホを取ろうとしてそのまま眠ってしまったのだろう。我ながら寝汚いものである。

「忙しかったの?俺に合わせてもらってごめんね……」

 いつもより殊勝な声音で、泉くんがよしよしと私の頭を撫でた。確かに今日予定を空ける為に1週間ほど頑張ってはいたが泉くんに会えるのならへっちゃらだと睡眠時間を削った結果、こうなってしまっただけである。
 私は撫でてくれる彼の滑らかな手に手を重ねた。綺麗で、すべすべで、優しい手だ。いつもの泉くんである。

「今日のために頑張ってよかったって今すごい思ってるから、いいの」

 せっかくだから沢山甘えちゃえ。と彼にすり寄ろうと手を伸ばした。が、私が握ったのだ彼の手ではなくハンカチである。

「まずそのヨダレ拭いて」
「あ、」




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