TOP > 更新履歴 > 記事 斑と同棲したて 2024/10/27 22:50 「……おはよ」 「あれ?もう起きるの?」 今日は久しぶりの一日オフだから多めに寝るんだと昨夜豪語していたはずの斑くんが、8時頃のそのそと起きてきた。私も今日は休みだったので早めにある程度の家事を済ませてしまおうといつも通りの時間に起きたのだが、彼はあと2時間は寝ると思っていたのに予想外である。 基本、斑くんの朝は早いし支度も早い。低血圧とは無縁なのか目を覚ましてからの行動はシャキシャキしてるので、こんなにぼんやりとしているのを見るのは恋人である私から見ても大変貴重である。 「ん〜……つむぎさんから連絡が来ててなあ。午前中だけ事務所に顔を出してくる」 「そうなんだ、お疲れ様だねぇ」 朝ごはん出来てるよ。食べる?と付け加えると、彼は着ているスウェットのトレーナーに手を突っ込んでお腹をさすりながらあくびをして、一つ頷いた。 「食べる……けどその前にシャワー浴びてきていいかあ?」 「その方がいいね。髪の毛爆発してるよ」 「はは、昨日睡魔に負けて髪半乾きで寝ちゃったからなあ。今日休みならいいやと思ってたらこれだ」 彼の髪は見事にあちこち飛び跳ねて、心なしかいつもより一回り膨らんでいるように見える。ライオンのたてがみのようなそれがなんだか可愛く見えて笑うと、斑くんは複雑そうに目を細めてから踵を返し、浴室へと吸い込まれていった。 私は彼用のコーヒーを淹れるべく準備をしながら何故かけたたましく跳ねている心臓を沈めようとした。普段は私より斑くんの方が起きるのが早くて支度するのも早い分、あんな風にだらしない斑くんはとても貴重だったのだ。髪は爆発して、髭も伸びていた。少しずり下がったスウェットのズボンからはみ出たボクサーパンツのゴムですらなんだか新鮮で、まだこういう生活に慣れきっていない私は妙にドキドキしてしまう。 それを誤魔化すようにドリップコーヒーを落としながらトースターでパンを焼いていると、私はふと歯磨き粉が切れていた事を思い出した。おととい買ってきたばかりだったのでテーブルに置きっぱなしだったそれを持って脱衣所へ向かうと、既にシャワーから出た斑くんが上半身裸のまま髪を乾かしていた。ドライヤーの音に負けないように、少し大きい声で話す。 「歯磨き粉無かったでしょ」 「いや、ギリギリ足りたぞお。俺で最後だったなあ」 洗面台に新しいものを置いてすぐそばにヘナヘナというかチリチリになった歯磨き粉のチューブが置いてあった。私の力では到底残りは絞り出せないような感じだったのに、彼の力技で無理やり出したように見える。私はそのチューブをそっと回収してから彼を見た。先ほどまでは逆立った髪のせいで一回り大きくなっていた頭がすっかりいつもの斑くんに戻っている。彼はドライヤーを止めて手早くワックスを馴染ませると、器用に髪を編み込みしていった。前から後ろに向かって短めの髪を編み込むのは難しいのに、躊躇いのない手つきでさっさと結い上げているのに思わず感心してしまう。 「ん?どうした?」 「あ、ごめん。器用に髪の毛編み込むな〜って」 「大体いつも同じ髪型だからなあ。慣れた」 あっという間にいつもの髪型に戻った斑くんは、お風呂場で髭も剃ったのかすっかりいつもの清潔感満点なビジュアルに戻っていた。いつもの彼で少し安心するけど、反面あのだらしない感じも私しか見れない姿だったからこそなんとなく惜しい。 「ご飯出来てるから早く来てね〜」 「ありがとう」 なんの変哲もない朝の風景だったはずなのに、なぜかドギマギしっぱなしの私は自分のリズムを整える為に彼に背中を向けると、脱衣所から出るべく扉に手をかけた。「わぁ、」 しかし後ろから手をぐいっと引かれて、そのまま斑くんに抱きしめられた。いつもは思い切り抱きしめてくるのに、今日はなんだか手つきが優しい。お湯を浴びてたからかポカポカした体温が私の背中に広がる。 「今日は久しぶりに休みが被ったのになあ。ごめん」 少し掠れたいつもより低い声は、妙に甘くてまた私の心臓は一人ドクドクと早駆けていく。うっかり噛みそうになりながらなんとか平常心を保って、抱きしめてきた彼の腕に手を添えた。 「い、いいよ。帰ってくるの待ってるよ」 「好きだぞお〜」 「私も私も」 頭に温かい感触が微かにしてから、わざと大きめにちゅっという音が響いた。頭にキスをしてくれたので少し期待してくるりと彼の方へと向き直ると、案の定額と頰にもキスをくれた。彼の髪が顔に触れてくすぐったい。微かにするのはワックスとシャンプーの香り、それからシェービングクリームの匂いだろうか。清潔感に溢れた香りで胸がいっぱいで、何度だって彼に恋をしてしまう私も私である。 「さて、ご飯にしよ〜」 「そうだなあ。ありがとう」 「いいよ」 私の気は済んだし斑くんの気も済んだと予想して仕切り直すと、彼の手を引いてリビングへと戻った。パンは既に焼けて、コーヒーもドリップが済んだようだ。 少し寂しいけどいい朝か。なんて余韻に浸りながら、大きな口でさっさと朝食を平らげていく斑くんを見つつ私はそれを実感する。 朝は彼からキスをくれたので、帰ってきたらおかえりのキスを勇気を出して私からしてみようか。などと朝から考え、一人慌ててコーヒーを咽せる私はまだ修行が足りない。 [prev][next] [Back] |