TOP > 更新履歴 > 記事 凛月が制服を着る 2024/10/27 23:12 少し明るめの青いブレザーにチェック柄のズボン。ネクタイは学年ごとに色が違うので3色あったらしい。不織布で出来た衣装ケースからクリーニングをした時に入れてもらえる大きなビニール袋に入った制服をゴソゴソと取り出して遠慮もなく広げれば、それを持ってきた張本人である凛月くんはソファに寝転がりながらすぐそばに座る私の手元を覗き込んでくる。そんな彼に確認するように、私は透明なビニール越しに夢ノ咲学院の制服をサッと撫でた。 「ブレザーの中、グレーのニットベスト?かわいいね」 「うちは特に指定のものなかったからねぇ。まーくんはパーカーだったし、カーディガンでもなんでもよかったよ〜」 「へぇ、いいなぁ。さすがアイドル養成校だね。おしゃれ」 でもこれ、着る人を選ぶ色だよねぇ。というシビアな感想は3年間、否彼の場合は4年間着てきたからこその言葉なのだろうか。グレーのニットベストをゆったり着て机で居眠りをする凛月くんが容易に想像出来て、私は思わず笑いをこぼした。 「なぁに、何笑ってるの」 ソファに寝転がったまま手を伸ばして来た凛月くんが、私の頬をこしょこしょとくすぐってきた。思わずやめて、と避けると、今度は耳たぶを軽く揉まれる。すっかり遊ばれていることに気づいて、私は慌てて話の本題へと戻った。 「で、この制服明日仕事で使うんだよね。今になって高校の制服着るって恥ずかしい?」 高校を卒業して時間が経った今、私が高校の制服を着ろと言われても絶対に無理だと拒否をしそうなものだが、凛月くんの場合は仕事ならば色んな服を着る必要があるし、それが当然だと思っているだろう。そんなメンタリティなら高校時代の制服くらい余裕なのかもしれないと想像しつつも、少し恥ずかしく思ってたらかわいいなぁと聞いてみたけれど、凛月くんは小さく首を横に振りながら「ぜ〜んぜん」と答えた。 「衣装で学ランとか着る時もあるしそれと同じ感覚だから、別に平気」 「だ、だよね。すごいなぁ」 「仕事だしねぇ」 ふぁ、とあくびをした凛月くんを横目で見ながら、私は制服を片付けるべくハンガーに掛かったそれを再びケースにしまおうとした所で彼が「待って」とその手を止めた。私が振り返ると、何か悪戯を思いついたような顔をしながらクリーニング屋の袋を破き始めた。 「えっ?いいの?袋破いて」 「ちょっと試着。キツくなってたらまずいし」 「えっ!ええ!?」 「……見たかったんでしょ?今日はサービスしてあげる」 立ち上がってこちらを見下ろす凛月くんがニンマリ笑ったのを見て、私が彼がここで制服を着てくれる事を期待していたことが彼にすっかり読まれていたことがバレてしまった。恥ずかしくて一気に顔を熱くすると、それを見た凛月くんが歌うように呟く。 「着てみてって言えばいいのに。言えないくらいやらしいことでも考えてたの?」 「ち、ちがうもん!仕事で使うって言うから、その、袋破っちゃいけないのかな、とか!」 「言い訳無理ある〜。貸して」 つん、と人の頬を突いた凛月くんが、更に豪快にクリーニング屋の袋を全て破くとその場で着替え始めた。体型はほぼ変わらないようでスラックスも難なく入っているし、ベストのゆるゆる具合もちょうど良さそうだ。 「うん。やっぱりサイズ変わってない」 「!!」 「どう?似合う?」 「に、にあにあにあ」 「どっち」 「似合う〜!かわいい!!」 可愛いという言葉が不服なのかちょっとムッとした凛月くんの表情がいつもより幼くて、私は見たこともない高校生の頃の凛月くんを勝手に妄想してなんとも言えない気持ちになる。もちろん未成年の頃の凛月くんに興味があるわけではなく、凛月くんの珍しい姿というものにテンションが上がっているわけだけど、なぜだろうか。非日常的な服を着ている彼が新鮮で、心臓がバクバクと高鳴り始めている。 「おね〜ちゃん、大丈夫?」 「うっ!」 すると突然凛月くんがちょこんと私の横にしゃがみ込み、私の顔を覗き込んできた。目が合った彼の表情は楽しそうで、紅い瞳は鈍く光っている。その目はどこか妖艶で、私の行動の何手先も読んでいるような、彼の手のひらに乗せられている感が妙に心地よくて、私は思わずしゃがんでいる彼に乗り上げ、押し倒した。 「わぁ、」 「り、りつくん……!」 「なぁに?」 凛月くんがやや棒読みのような声で小さく悲鳴を上げるも、私は自分の心臓の音がうるさくてほとんど聞こえていなかった。明日仕事で使うからシワにならないように、とか、別にコスプレに興味があるわけじゃないのに、とか色んな言い訳を頭の中だけで並べ立てた所で、ボタンがピッチリ止まっていない首の隙間から見える彼の男らしい喉仏に私は思わずゴクリと喉を鳴らした。情けない。彼氏の制服姿でこんなに興奮するなんて。 しかし凛月くんはそんな私の聞こえるはずもない葛藤をしかと理解したのだろう。一度妖しく笑って少し唇を尖らせてから、甘えるような声で言った。 「えっち」 「ひぇ、」 生まれて初めて、興奮のあまり失神するかと思った。彼の上でへなへなと足の力を無くしてへばりつくと、凛月くんは優しい、けれどどこか熱を持った声で言った。 「明日仕事で着るから、今日はがまんね。……また今度」 「は、はい……」 「ふふ、いいこ」 頬を軽く摘まれて、凛月くんは私を自分の上からどかすと制服を脱いだ。名残惜しくなりながらも、彼の着替えを不躾けに見つめると、ふと彼の下半身に目が行ってしまい、慌てて目を逸らす。 あの空気の中、興奮しているのは自分だけではなかったことにほんの少しだけホッとしたのは、ここだけの秘密である。 [prev][next] [Back] |