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なずなと両片想い
2024/02/20 20:49

 ある程度覚悟してはいたが、予想以上に寂しさを感じた。

「仁兎は最近アイドルの方忙しいだろ?こっちはやっておくからいいよ!」
「でも、それじゃあ悪いよ。グループワークだろ?」

 彼らの言葉は、どう考えても優しさと善意から来ているのだろう。確かに復帰宣言以降のなずなは以前に比べてアイドル活動が忙しく、教授と相談して単位の取り方も変えた。
 それでもこうして時間があれば授業に参加するのは、なずな自身が参加したいからなのに。
 けれど皆「自分たちで課題はやっておく」としか言ってくれないのがなずなにとっては寂しかった。責められるのは辛いけどそれも当たり前だと納得しているのに、まさか逆の事態で寂しくなるなんて。

「……でも仁兎くんやる気でいてくれてるからさ、資料集めとかお願いしない?」

 そんななずなの複雑な渦の中、ぽい、と小さな光が投げ込まれてきた。あ、となずなが思う間もなく、彼女はレジュメにマーカーを引いていく。

「これとこれを調べるの、仁兎くんにお願いしようよ」

 私がフォローするから。となずなに笑いかけてくれた女の子は、なずなが密かに気になっている少女だった。
 きっと彼女の行動は周囲に「アイドル相手に点数稼ぎ」だのと言われてしまうかもしれない行動だろう。それでも彼女はなずなの願いをちゃんと読みとって、声に出してくれた。
 じぃん、と血管がしみるように喜びが全身を伝う。アイドルとしての仁兎なずなでは手に入れることが困難な感情を教えてくれた彼女になずなは密かに感謝していた。

しかし、そこまでである。


「あ、この資料は多分検索に上手に引っかかってこないかも……」
「そうなのか?」
「うん。教授が言ってたの。確か著者で……待って」

 彼女はスマホでなずなが探している資料の著者を調べ始める。すぐに答えは出たらしくそれをなずなに見せてきた。

「あ、本当だ。題名だと検索しにくい」

 目当ての本を手に入れるべく二人で図書館の奥の本棚に向かった。奥に行けば行くほど人の気配が薄れ、本の無機質な感覚に包まれる。

「……あ、あったあった。ありがとな」
「私も気になってるの見つけた。サクッと調べてまとめちゃおう」

 そう言って、彼女はまたにこっと笑う。その瞬間、なずなの脳裏には先ほどの彼女のスマホが映っていた。一度息を吐いて、なるべく自然を装う。

「あ、あのさ。連絡先知らないと不便だから……教えてくれないか?」 

 緊張したけど、噛まずにちゃんと言えた。彼女は一度きょとんと目を丸くしたけれど「そうだよね」とあっさり同意してくれる。

「私もそう思ってたの。よかったら教えてくれる?」

 絶対誰にも教えないようにするね。という彼女の気遣いに余計に舞い上がってしまったが、彼女があまりに自然なのでそれとなく出来たような気がする。さっさと連絡先を交換すると、その瞬間彼女がスマホを取り落とした。

「あ、」
「ん、大丈夫か?」

 その瞬間、なずなは見てしまった。彼女の耳が燃えるように赤いのを。手が微かに震えているのを。

「ご、ごめんね!大丈夫!大丈夫……」
「そっか。よ、よかった……」

 何がよかったのはさっぱりわからない。けれどなずなはよかった。と、心の底から思ってしまった。



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