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宗の気持ちが透けてる
2024/10/27 23:23

 アイドルの衣装、白パンツ多すぎ問題。

 最近の、私の仕事上での悩みといえばこれだった。私はカートをガラガラ押しながら上司から預かったメモをもう一度見直す。ESにも多くの芸能人がいるわけだが、何故だか若手のアイドルの衣装は事務所管理ではなくES側が一纏めに管理しているのでそういった仕事は事務所ごとに取りまとめたあと、私のいる部署に回ってくる。

「えっと……うわ、今回多いなぁ」

 エレベーターの中でため息を吐きながら、私は英数字の羅列をぼんやり眺めた。


 それぞれタグに打ち込まれている六桁の英数字で構成されている文字列は、彼らの衣装を管理するに当たっては非常に重要なものである。特にパンツにおいてはこれがないと管理出来ないのだ。

「失礼しまーす」 

 この時間なら誰もいないだろうと踏んで、半ば適当な挨拶をしながら衣装部屋の扉を開いた。今日の業務はアイドルたちの衣装、パンツをまとめてクリーニングに出すことである。直近で必要な衣装をクリーニングに出すわけにはいかないのでその辺をメモしてきたはいいが、いかんせん彼らの衣装は白のパンツが多い。事務所ごとにまとまっているとはいえ探すのは骨が折れそうである。私はカートを少し雑にガラガラと押しながら、もう一度メモを見つめた。

「静かに。カートの音がうるさいのだよ」
「ひっ!」

 一つ目の棚を曲がった所で思わず悲鳴を上げる。なんと奥の作業場所でコズプロの斎宮くんが作業をしていたのだ。まさか人がいると思わず、私はビクッと肩を震わせた。

「フン、おおかた誰もいないと思ったのだろう。迂闊だね」
「す、すみません斎宮くん。お疲れさまです」

 すると彼から随分とまっすぐな「お疲れさま」が返ってきた。衣装周りの管理仕事をすることが多い私は必然と斎宮くんやリズリンの鬼龍くんと仕事を一緒にすることも多いのだけれど、なんとなくいつもより彼の機嫌がいいように感じる。

 よく手元を見てみれば、もう少しで完成間近らしき衣装を手にしている。きっと納得のいく出来なのだろう。

「君は仕事かね」
「はい。クリーニング手配です」

 そこからは自然に会話が途切れる。斎宮くんも私も暇なわけではないので、ここらが潮時だろう。私は改めてメモを見ながら、まずは比較的キッチリと管理されているコズプロの衣装がある区画へと入った。なんとなくどのユニットにもキッチリした子がいるアイドルたちなのでそこまでクローゼットが荒れ果てているわけではないが、それでも忙しかったり油断していると思わぬ衣装が思わぬ所から出てくるのは困ったものだ。

 私は衣類の裏に付けているタグを一応目でも確認しながら、バーコードを読み込んでクリーニング登録していく。Edenのユニット衣装は一番早く仕上げてもらわなければいけないのでその辺も合わせて登録しつつカートに入れていく。しばらくそんな作業を黙々としていると、嫌な予感が的中してしまった。

 ニューディのクリーニング手配における問題児その1、月永レオくんのユーサネイジアライブのパンツがない。

「はい出た〜」

 私はポツリと呟きながら、とりあえずKnightsの棚ではなくニューディ全体の棚を探し始める。月永くんはよく全然関係ない棚に衣装を掛けてそのまま作曲作業に入り、衣装の存在を忘れて放置してしまうというとんでもない事をしてくれるのだ。

 大量にあるサイズもそこそこ似通った白パンツを、ひたすら形状と質感を頼りに探し始める。「おっ」と思ったら逆先くんのユニット衣装のパンツで、内心白パンツに辟易とする。

「えぇ〜、もう……」

 こうなったら仕方ないので、ニューディ以外の事務所の区画も探さなければならない。あぁ、顔の綺麗な子たちの手伝いが出来るとはいえあまりにも面倒だ。私はとりあえず端からと、スタプロの区画に行こうとした所で突然斎宮くんがひょっこりと顔を出した。

「うわっびっくりした」
「すまないね。何かあったか?」

 私の独り言を聞いて来てくれたのだろう。もしくは衣装の事なら任せてくれたまえ、という所だろうか。どっちにしろありがたいので、彼の優しさに甘える事にする。

「えっと〜、月永くんの衣装がKnightsの棚から見つからなくて」
「……あぁ」

 一言で納得してくれる辺り、アイドル同士が元同窓生なのは助かる。斎宮くんはくるりと踵を返すと、リズリンの衣装が掛かった棚を物色し始める。やがて少しして、私が探していたパンツを持って来てくれた。

「これだろう?」
「えっ!すごい!……ND-LT06、そうです!ありがとうございます!」
「フン、月永はその辺で寝転んで作曲をしていることが多いからね。恐らく適当にハンガーに掛けて放置したのだよ」
「もう、それやらないでって言ってるのに」

 私はバーコードをスマホで読み込んでクリーニング登録をする。これであとはキッチリした子たちの白パンツを集めるだけなので終わったも同然だ。

「本当に助かりました斎宮くん」
「カカカ、僕の機嫌が良かった事に感謝するといいよ」

 あ、やっぱりご機嫌だったんだ。と思いつつニコニコ笑って頷いておく。助かったのは事実だ。

「衣装完成したんですか?」
「まぁね。見せてやってもいいが」
「見たいです!」

 私がこんなに面倒な仕事を進んでやっているのはひとえにアイドルのキラキラした衣装が好きだから、というのもある。なので斎宮くんが作っていたものにも非常に興味があったのだ。

「ほら、美しいだろう」

どうかね?とか聞かずに美しいだろう。と肯定を求めてくる辺りが斎宮くんらしくて、また自信の程が窺える。繊細な刺繍と細かい作業が美しいそのドレスは勿論素晴らしい出来で、私は目を輝かせた。

「えっ!きれい!きれいです!わぁ、ドレス作っていたんですね!」
「依頼でね」
「すごい豪華ですね。斎宮くん!て感じのデザイン。私すごく好きです」
「そう、かね」
「はい!」

 スタイルのいいトルソーが着ているドレスをまじまじ見ながら彼の仕事ぶりに惚れ惚れしていると、斎宮くんが小さな声で呟いて、手のひらサイズのものを渡してきた。

「ならこれ、よかったら使ってくれたまえ」
「えっ?!」

 そこにあったのは小さなポーチで、ドレスと同じ花模様で作られている。すごく丁寧な作りのそれに驚いていると、斎宮くんが視線を外しながら言った。

「以前ここで会った時、僕の作品のファンだと言っていただろう。だからハギレで、試しにね」
「い、いいんですか?!」
「いいと言っているのだよ!」

 しつこい!と言いながら背中を向けてまた作業を始めてしまった斎宮くんに、私は以前彼にここで会った時確かに彼の作品のファンだと告げた事を思い出した。彼くらいの人ならそんな言葉言われ慣れているはずなのにそれをきちんと覚えていてくれて、更にわざわざ作品を作ってくれるとは思わなかった。すっかり背中を向けてしまった彼に、私は小さく頭を下げてから、緊張する舌で告げる。

「大事に大事に使います。本当に嬉しいです。ありがとう、ございます」
「気に入ってくれたのなら何よりだよ」
「はい。その〜、斎宮くんの気持ちが何より嬉しいです」
「な、」

 彼が振り返った気配がしたけれど、それを無視して私はカートを引いて出口へと向かった。扉が閉まる直前、彼が「そんなつもりではない!」と叫んでいたけれど、先程から彼の耳が赤いのを見てしまった私からしたら、なんとなく彼の気持ちが、このポーチから透けて見えてしまったような気がしたのだ。



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