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なずなとお好み焼きを食べる
2025/06/07 23:50

 試験が終わった。出来はともかくとしてもうこれで自分を縛るものなど何もない!と解放感でいっぱいの学内の晴れやかな空気の中、ふとなずなくんからメッセージが届いた。すっかり友人になった彼とはよくメッセージのやり取りをするようになったのである。

『テストお疲れ!どうだった?』

 私はそんな彼のメッセージに聞かないで。と冗談半分で送れば、なずなくんからも『おれも!』と返ってきた。とはいっても彼は成績優秀者なのできっと話を合わせてくれただけな気がするけれど、同じことを考えている人がいる、というだけでなんか心強くなるのがテスト明けってものだ。

『今日はバイトあるのか?』

 不意になずなくんが話題を変えてきたので今日は何もないよ。と伝える。すると今度は着信がきた。案の定なずなくんからなので、電話に出る。

「は〜い」
「おつかれ〜!なぁまだ構内にいるか?」

 そろそろ正門の前に着く旨を伝えると、なずなくんがちょっと緊張したような声を出した。

「な、なぁ。もしよかったら…今からごはん食べにいかないか?」

 テストお疲れ様会みたいなやつ…と言うので、いい案!とばかりに私は声を弾ませて賛同した。なずなくんからも嬉々とした声がスマホから聞こえてきたのでとりあえず落ち合おうという話になり、私は正門で彼を待つことにした。何人かの友人とすれ違って挨拶をしたところで、金髪の影がぱたぱたと走ってくるのが見える。

「おまたせ!」
「ううん大丈夫」
「お腹すいたな〜」
「何か食べたいものあるの?」

 そう聞くと、なずなくんは「おれお好み焼き食べたいな〜と思ったんだけどどうかな?」と提案してきた。確か大学から2駅先に美味しいお好み焼き屋さんがあったはずである。それを伝えると、なずなくんはパッと顔を明るくした。

「おれお好み焼きをお店で食べたことないんだ!」

 やった〜とにこにこ笑うなずなくんに、今までアイドルとしてかなり慎重に行動していたんだな。というのが見て取れた。ならば美味しいお好み焼きを食べさせてあげようと、私は意気揚々と電車の改札を通ったのである。


 お店に着くと並ばずにそのまま入れたので、早速注文をする。なずなくんと相談して、お店のオリジナルミックスと餅明太ミックスを一枚ずつ注文した。あちこちから煙が立ちこめる中、鉄板の付いたテーブルを挟むようになずなくんと座る。

「お好み焼きは自分達で焼くのか…?」

 少し心配そうになずなくんが言った。

「そうだけど大丈夫。私家にいるとお好み焼きは焼き係だから」

 うちでは私がお好み焼きを焼く係、姉はひたすら食べる係なのである。不公平だがすっかりその役割が染み付いているので、焼くことに関してはなんの心配もいらない。

 暫く試験の手応え等の他愛もない話をしているうちに、店員さんがオリジナルミックスを持ってきてくれた。私はその器を受け取り、木さじで具材を混ぜ合わせてから油を引いた鉄板に乗せた。ジュワ〜といい音がして、油がテーブルに跳ねていく。

「あちち」
「あっ気をつけて!油跳ねるよ」
「大丈夫大丈夫」

 おまえ心配性だよな〜と笑って言われたけどなずなくんもあまり人の事を言えないと思う。ヘラで生地を少しめくってみると、いい焼き色がついていたのでひっくり返した。なずなくんが「おぉ〜!」とぱちぱち拍手してくれる。男女逆転している感が否めないけれど、私たちは別に付き合っているわけでもないしどうでもいい。もう片側を焼きながら、ちびちびとお水を飲んだ。

「手際いいな〜。友達とも来るのか?」
「ここは一回来たくらいかな。お好み焼き屋さんは家族と行くことの方が多いよ」

 友達とはおしゃれなカフェに行くことが多い。流行に敏感な友達があちらこちらと連れ回してくれるが、気兼ねなく食べられるご飯は美味しいので私はどちらかというとこういう飾り気のないお店の方が好きである。それをオブラートに包みつつなずなくんに言うと、彼は苦笑いを浮かべながら「女の子の世界も大変だよな」と言ってくれた。

「まぁね。お喋りは楽しいしカフェのご飯は美味しいけど、2時間とか待つなら私はこういうお店で食べるのも全然好きなんだけどね〜」

 SNSをやっている友達的には見た目が映える写真の撮れるお料理の店でないとダメらしい。その辺は友達といえど理解がなかなか難しい部分だ。

「その気持ち、おれも少しだけ理解できる。自分が言いたいことを我慢し続けるって大変なことだよ。それを毎日サラッとやってるんだから、尊敬するよ」
「お、大袈裟だよ…。そんなに大したことだと思ってないもん」
「大した事だよ。おれにはわかる」

 そう言ったなずなくんは一度じっと私を見つめてから、にこりと笑った。きっと芸能界で色々辛い思いもしてきたんだろうな。と思いつつ、焼けたお好み焼きにソースとマヨネーズを振った。ソースのいい香りが、私たちの間に立ち上る。

「うわ!美味しそうだな〜!!」
「はい後はこうして…」

 ヘラでザクザクと4等分に切って、青のりとかつお節をお好みでどうぞ。と言った。彼は楽しそうに2つを掛けて、割り箸を割る。ソースの上で、かつお節が踊っていた。

「いただきます!」
「いただきま〜す」

二人で声を揃えて熱々のお好み焼きを頬張った。ソースと小麦粉はやはり最強である。

「美味しい!焼き立てってやっぱりいいな!」
「うん美味しい。ここのオリジナルミックス好きなんだよね」

 熱い熱いと言いながらそれを食べて、もう一枚も焼く。生地を裏返した所で、なずなくんが可愛らしい笑顔で言った。

「なぁ、またこういう気兼ねない店知ってたら教えてくれよ。一緒に行こう」

 その言葉が私の小さな小さな悩みをちゃんと噛み砕いてくれた事がわかって、私は歯に付いてるかもしれない青のりも気にせず笑顔で頷いたのだった。
 



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