恋縫閑甘

「こんにちは陛下。おやついかがですか?」

 この国で一般的に言うおやつの時間に、彼女はひょっこりと顔を出した。ちょうど秋に行う祭事についての書類を読み終えた所だったので、宗はさも今気がついた、とでも言うように顔を上げる。
「あぁ、ありがとう。気が効くね」
 音を立てて執務室の椅子から立ち上がり、部屋の隅にある小さい卓と椅子まで移動すると、妻である王妃は籠に何かを入れて持ってきた。円盤型の焼き菓子から香ばしい香りが漂ってくる。

「月餅かね」
「はい、作ってきました」
「君が?」
「簡単なんですよ」

 籠をテーブルに置いて席に着くと、彼女の女官が茉莉花茶を淹れてくれた。緑茶を混ぜてあるのか、花の香りとともに緑茶の苦く瑞々しい香りも混ざっていて、書類仕事で少しばかり淀んでいた思考と目を覚まさせてくれる。

「はい、これが小豆餡、これが栗餡、蓮の実はこれです」
「三つは少し多いね」
「じゃあ半分こしましょう」

 小さな切り分け用のナイフを持って、彼女が小豆餡の月餅を食べやすく切り分けてくれた。中にはぎっしりと餡が詰まっているのか、今にも外側の生地が弾けそうである。それを改めて見た王妃が恥ずかしそうに、けれどおどけるように言った。

「欲張って餡を詰めすぎたら、月餅型からはみ出て何個か破裂しちゃったんですよ。これでも綺麗なの選んできたんです」
「カカカ!君は甘いものに関しては殊更欲張りだからね」

 切り分けてもらった月餅を一欠片つまみ、口に入れる。しっとりとした生地に、餡に入った砂糖が疲れた宗の身体に染み渡って行く。少し濃いめに入った茉莉花茶の苦味が甘さを程よく中和してくれた。

「うん、おいしいよ」
「よかった〜。以前作った芋餡の饅頭の方が上手く出来たから、美味しくなかったらどうしようって心配だったんです」
「餡が入りすぎな気はするが……君らしくていいのではないかね」

 そう宗が笑いをこぼしながら言うと、王妃はどういう意味かわからないのか疑問符を飛ばしながら首を傾げた。
 おいしいものは目一杯詰め込んで、それを宗に食べさせたいと思ってくれる彼女の気持ちが、餡を詰めたせいで生地が一部薄い月餅に現れているのが、宗はなんとなく嬉しかった。

 彼女に料理をする事を許可して良かったと思う。日々、宗が見たかった彼女らしさを見せてくれる。それが宗にとっては何よりの甘味なのである。

「そういえば小僧……夏目から少し珍しい交易品をもらったよ。珈琲という豆を煎った茶のようなものなのだが、夕食後にでも飲んでみるかね。苦いらしいのでこれに合うかもしれないよ」
「私も頂いてよろしいのですか?でしたらぜひ」

 夕食後も楽しみが出来た国王夫婦なのである。

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