アクアリウム・セキュリティ

 これは、レオくんと私が付き合い始めたばかりの頃の話。


 レオくんの仕事が終わったというので彼の家に来てみれば家の鍵が開いていて、手の中で揺れるビニール袋のガサガサという音にかぶせるように私はため息を吐いた。
 本当にいつか犯罪に巻き込まれたらどうするというのだ。私は来て早々彼を叱るネタを拾ってしまい、ため息を吐きながら家の中に入る。
 しかし予想に反して家の中はしんと静まり返っていて、私は首を傾げた。彼の事だから玄関まで迎えにきてくれると思ったのに。

「レオく〜ん…?」

 寝室にはいない。ただし洋服ダンスが物盗りに遭ったレベルで荒れている。

「なにこれ」

 洗面所も覗いてみた。何故か床がびしょびしょに濡れていて、歯ブラシスタンドとプラスチックのコップが転がっている。
 私は一瞬心臓をドキリとさせた。何かしらの緊急事態かと思ったのだ。慌ててリビングへ足を運ぶと彼がうつ伏せで倒れていて、思わず息を吸った瞬間ヒッと喉が鳴る。私は未だ起きることのない彼に、震える手を叱咤して駆け寄った。

「れ、レオくん?レオくん!」

 身体を揺さぶろうとして、やめる。頭に何か異常がある時は揺さぶってはいけないと聞いたことがある。もしかして泥棒に遭って、頭を殴られた、とかあるかもしれない。

「レオくん!!」
「ん……」

 起きた。私はそこでようやく自分のスマホの存在を思い出す。119番をいつでも押せるようしたまま、半分以上泣きながらレオくんを見る。流血はしてない。意識もあるようだ。それだけで少し、ほっとする。

「レオくん大丈夫?!どうしたの?!何があったの?!」
「何が……?」
「何がって!家すごい荒れてるから泥棒でも入ったのかと思って…!!」

 彼が仕事が忙しくて家を荒らす事はあったけれど、生憎今は仕事に追われているわけでも無さそうだっだ。実質3日前に来た時は普通だったのに。私は背中を冷や汗でびしょびしょにしながら震える手で彼の服を掴む。

 するとレオくんは何かを考えるように斜め上を見てから、「あ〜……」と気まずそうに唸った。

「ねぇあれどうしたの?!何があったの?!」
「いや、あのな……」
「何!!」

 ここで私が泣きそう、というより泣いてる事に気がついたのだろう。レオくんはガバッと起き上がると、焦ったように、そしてどこか気まずそうに言った。

「今日おまえが来るから、何着ようかなってタンス漁って…ちゃんと髭剃ろうと思ったら肘が蛇口に当たって…」
 ここで私は経験上察した。涙や心配が完全に無駄だった事を。
「……そんで?」
「そ、そんで……後で片付けようと思ってそのまま忘れて……なんかお昼作っておこうかなってスマホで調べてたら……寝ちゃった」
「……」

 レオくんの背中を思い切り引っ叩いた。彼はいつでも格好つけのくせに、格好つける時は大体きまらないのだ。

「いたいっ!叩く事ないだろ!」
「せめて!!家の鍵は掛けておいて!!」

.