愛しのアールグレイ・2
「ただいま〜…」
「おかえり!おかえり!おかえりなさ〜い!」
夫である凛月とお義兄さんである零さんが兄弟揃って外国に仕事に行ってから15日という長い長い期間家を空けていたのだけれど、二人とも無事に帰ってきた。
私は旦那様である凛月がいない間寂しくて仕方なかったけれど、一緒の屋敷に住む零さんのお嫁さんであるお義姉さんが刺繍を教えてくれるというので、思ったよりそれに没頭した日々を過ごす事ができた。凛月が帰ってきたらびっくりさせようと思って毎日毎日必死で作業して下手なりに枕カバーと寝巻き用の帯を作ったので、後で気づいてくれるといい。
それより今は無事にお仕事を終えて帰ってきた旦那様を『できる』嫁らしく粛々と迎えよう。そう思っていたのはずなのに、実際に凛月の紅い瞳を見たら会いたかった気持ちが先行してしまった。
「あんたも元気そうだねぇ」
凛月は抱きついてきた私を片腕で抱きとめると、もう片方の手でよしよしと頭を撫でてくれた。その手が久しぶりで、私はじぃんと感動してしまう。元々幼馴染みでずっと凛月の事が好きだったのに、妻になった今でもこんなにも凛月に恋しているのである。
「私は元気だったよ。お義姉さんと過ごしてた」
「そう、よかった」
「お仕事お疲れ様でした」
「うん。ただ兄者と一緒だったのは最悪だったけどねぇ」
「ふふ」
口ではそう言いつつも、凛月が零さんと信頼していることを私はよく知ってるのだ。
「なぁに、その含み笑い…」
「なっ、なんでもない。なんでも」
凛月は勘が良くて困る。
「はい。これお土産〜」
「えっわざわざ買ってきてくれたの?ありがとう!」
夜、寝る前に凛月が小さな瓶をコトリと置いた。異国情緒溢れる模様が綺麗な硝子の容器の中には、何かとろっとした液体が入っているようである。
「これ、なに?」
「あっちの国で取れる花で作った香油だって…。花、好きでしょ」
「わぁ素敵!ありがとう!」
お土産も嬉しいけれど、何より凛月が私が花を好きなことを覚えてくれていた事が嬉しかった。
「髪に良い成分が入ってるらしいから、髪につけてもいいんだって」
「へぇ。今つけてみてもいい?」
「どうぞ〜。俺もそろそろ着替えよ」
私は瓶から少しだけ香油を取って手に広げてから髪に付けた。こっちの方では嗅いだことない、いい香りにため息が漏れる。
「いい香り〜!ありがとう凛月!」
「へぇ……どれどれ」
寝巻きに着替えた凛月が、私の髪にそっと顔を近づけた。なんだか少し、緊張する。
「本当だ。俺もこの香り嫌いじゃないかも……」
「ね、ね!私も!」
「喜んでくれたならよかった」
彼がそう呟いた瞬間、不意に空気が変わる。ふと顔が近くなったのでドキドキと目を伏せれば、優しく口づけをしてくれた。そのままゆっくりと、布団の上に押し倒される。窓の外の満月と、ランプひとつしかつけていない薄暗い中でもよく見える凛月の紅い瞳が、とても綺麗だった。
「あの、あのね、凛月。私凛月がいない間にお義姉さんと刺繍頑張ったんだ」
「うん。帯、作ってくれたんだ。ありがと」
「あとね、枕カバーも……」
「そうだねぇ。上手上手。でも」
うっとりと笑うと、凛月は帯を外して布団の隅に置いた。前がはだけて、白い肌が薄暗闇に映える。
「明日の朝ちゃんと見るから、今はもういい?」
「うん、いい……」
明日の朝褒めてもらえればそれでいい。今は褒められるよりも、いっぱいいっぱい大好きって言われたいかも。
私は彼の背中にそっと、腕を回した。
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