また長い間眠っていたかのようだ。
最近はここに来て、人や生活音にも慣れてきた。部屋から出たことは無いけれど、アオイちゃんの他にも、可愛らしい3人のすみちゃん、きよちゃん、なほちゃんと女の子が居る。それからしのぶさんと同様に隊士のカナヲちゃん。あまり話すことはないけれど可愛くて穏やかな笑顔が印象的な子だ。
毎日決まった時間に様子を見に来たり、薬を持ってきてくれるはずなのだけれど、今日は部屋の外が騒がしかった。ゆっくり体を起こせば、傷が痛むが前ほどではない。それよりも、眠っていたことでだるさが襲う。
薬でも飲もうとテーブルを見れば、見知らぬ花が目に入る。とても綺麗な花だ。アオイちゃんが飾ってくれたのだろうか。そういえば初めて会った時も花瓶を取り替えていた気がする。
未だにばたばたと足音が聞こえてきて気になってベッドから足を出してみた。
深い傷は右腕だけなので歩くのにあまり支障はない。それでもずっと寝ていたのでぎこちないけれど。
「重傷者はこっちにお願いします。あとの人は大部屋へ。それから...」
扉を開けてみれば、アオイちゃんやすみちゃん達がばたばたと動き回り、他にも隊士とは違う顔にも布をした黒い人達が人を抱えて走り回っていた。怪我人だろうか。こんなにも危険で大変な仕事をしている。私たちが平和に暮らすために。何だか眠り続ける無力の自分に嫌気がさしてきた。私も早く元気になって誰かの役に立ちたいな...。そんな事を思いながら部屋から一歩出た瞬間、バランスを崩して倒れそうになる。
「おっ、と。よもやよもやだ!君もまだ怪我人なのだから下手に動いてはダメだろう!」
「...え...」
逞しい腕。大きな胸板。黒い隊服に炎のような髪の毛。そして、なにより温かな体温。
そうだ。ずっと会いたかった人だ。炎柱様。
「...煉獄、さん」
「む。名前を聞いていたのか!よもや!煉獄杏寿郎だ!君が目を覚ましてくれてよかった!」
煉獄さん。煉獄杏寿郎さん。ニコリと笑って、大きな声で話してくれた彼にひどく心が安心した。しのぶさんから名前を聞いて必ずお礼を言いたいと懇願していた。
「...あの、あの、煉獄さん...」
「...よもや」
「?」
煉獄さんが前を見て固まったので、その視線の先に振り返ると、笑っているしのぶさん。笑って...いる。けれど雰囲気が凍りつくようなものだった。私の体を支えてくれたまま、肩に置いている煉獄さんの手が強ばったのを感じた。
「名前さん?部屋から出て何しているのですか?」
「...えっと」
「動いてはいけませんと言ってますよね?傷が開きますよ。せっかく順調に治っているんですから」
「...はい。すみません」
「まぁ、煉獄さんに会えたのはなによりですけれども」
それから再び部屋のベッドに横になる。俺に任せろ!と煉獄さんにお姫様抱っこされたのは心臓に悪かったけれど。
「本当に、ありがとうございました」
「いいや、俺が来るのが遅くて君の家族を助けられなかった。申し訳ない」
「そんなこと、ないです。あなたが現れた時、心の底から安心しました。とても、感謝しています」
未だに思い出して震える右手を左手でバレないように握る。
「...それに、...私が無力だったんです。誰も、助けられなかった」
「そんなことはない!」
「...!」
煉獄さんの大きな手が私の頭に乗る。
「君は強い子だ。たった1人でも鬼に立ち向かった。誰にでも出来ることじゃない。自分を誇れ」
何度でも言おう。そう言って、優しく、優しく笑いかけてくれた。誰かの温もりに触れたい。寂しい。辛い。ずっとそう思っていたけれど、いとも簡単に彼は私に温もりをくれた。
頭を撫でる手に、体の黒い隊服を握ると、そっと胸板に頭を包み込んでくれた。
あぁ、知っている。この体温。心地いい。泣きじゃくる私は気付かなかった。その大きな胸板の奥で何度も早く木霊する彼の心臓に。