やまない夜に花束をかざして息を続ける。

私も誰かの役に立ちたいと強く思ったのだ。
そして、助けれくれた彼の、私を生かしてくれた彼に恥じないように立派な人になろうと思った。


傷もだんだんと治り始め、部屋からは自由に出れるようになった。それでまた分かったこともいくつかある。鬼殺隊のこと。煉獄さんやしのぶさんはその中でも位の高い人材だということ。そのため、2人ともよく長期任務に行って会えなかったりもする。
彼はいまどこで何を思って戦っているのだろうか。

「名前さん!今日は一緒にすごろくやりませんか?」
「うん、一緒にやろう」

ずっと部屋と屋敷の中にいるものだからやることが無くて、何かお手伝いしたいと申し出ても怪我人だからと反対され、結果、すみちゃん達が一緒にすごろくやカルタなどで遊んでくれることが日課になった。
妹みたいでとても可愛い。私が笑顔で了承すると、お日様のように嬉しそうに笑う。

そして私の部屋じゃなくて、縁側のある広い間にすごろくを並べて皆で円を囲う。

「名前さんってとても笑顔が素敵ですよね」
「えっ...?」
「うん!私、名前さんが笑ってくれるようになって嬉しいです!」
「そ、そんな急に...」

突然そんなことを言うものだから驚いてしまうけれど、目の前の彼女たちは屈託なく笑う。

「すみちゃん達がこうして仲良くしてくれるから、私も楽しいの」

「うむ!仲のいいことは素晴らしいな!」


突然大きな声が聞こえてきて驚いた。扉の方を見れば腕を組んで仁王立ちしている煉獄さんだ。

「あら、煉獄さんいらしてたんですね」

遅れてやってきたしのぶさんは私達の様子を見て何を思ったのか、すみちゃん達に手伝って欲しいことがあると呼び出して、去り際に意味深な笑顔を浮かべて去っていってしまった。
残された私はどうしたらいいのか分からず、すごろくを片付けながら煉獄さんに声をかける。

「任務、お疲れ様です」

顔を上げると、こちらに歩み寄って隣に座る。

「ありがとう。君も、こうして動けるようになってなによりだ」
「はい。もうほとんど痛みも無いですし、いつも通り生活ができるかと思います」
「それはよかった。...お、3マス進めるな」

気付けば、会話をしながら私が片付けようとしていたすごろくのサイコロを持ってすみちゃん達がやっていた途中からマスを進めている。

「実家の道場が破産。100万失う。はは!これはキツイな!」


笑いながら傍にあった偽物のお金を渡してくる。そしてサイコロも。これは私も進めろと言う意味なのか。渋々サイコロを投げて6マス進んで止まる。

「お、抜かされてしまったな。…世帯を持つ。ふむ。おめでたいな!」

にこやかにお祝い金だと偽札を渡してきた煉獄さん。
そういえば煉獄さんはどうして鬼殺隊に入ったのだろう。私と同じくらいの歳だと聞いた。


「煉獄さんは、どうして鬼殺隊に?」
「俺の家は代々鬼殺隊の炎柱として受け継がれてきた。だから俺も熱心に剣術を教えてくれた父に恥じぬよう柱となったのだ」


その言葉に重みを感じた。強くて真っ直ぐな人だ。

「あ、桜だ」

ふわりと風に運ばれた花びらが部屋に舞う。
綺麗でとても落ち着く匂いだ。

「桜、好きなのか」
「え、?はい。とても」

昔、家族で一度だけ桜の舞う河川敷を歩いた。
遠い街だったからその時だけだったけれど、もしまた機会があるなら行ってみたいと思っていた。

儚くて、優しい色の花びらが好き。

「...綺麗...」

どこからかたくさん空へ舞い散る桜を見て思わず顔を上げて呟く。

「あぁ、...とても綺麗だ」

後ろで聞こえた声に振り向くと、柔らかな表情を浮かべた煉獄さんに胸がぎゅっと締め付けられる感覚に陥った。初めて見る顔。こんな顔もするんだと思った。それと同時に、誰にも見せたくないなんて、感情が私に現れた。

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