喉に通すと春風駘蕩の傷に沁みた。

ほとんと腕も動かせるようになって、私は蝶屋敷のお手伝いをする事が多くなってきた。主に洗濯と料理と掃除だ。
隊士の手当は無知である私にはまだ難しいけれど、一般の家事ならこなせる。

「ここは先に下ごしらえと、お塩を予め振っておくと味が染みやすくなりますよ」

特に料理は好きでよくやっていた。

「名前さん上手〜!
「すごい美味しそうです!」
「ありがとう」

そして今日出来上がったご飯を隊士もとへ届けに行く。

「ゆっくり食べてくださいね」
「は、はい。ありがとうございます」
「これはあなたのぶんです」
「お姉さん見ない顔だけど...最近入ったのか?」
「はい、今お世話になってます」
「そうなんだ」
「食べれますか...?」


腕を怪我しているため1人では食べられなさそうでスプーンを持って隊士さんの口元へ運んであげると彼は顔を赤く染めて慌てふためいた。

「今はほしくありませんか...?」
「あ、いや、えっと、」

どうしたのだろうか。もしかしてお口に合わないような料理だったのだろうか。栄養も満点のお粥なのだけれど。

他の隊士さんにもこうして食べさせてあげるとみんな顔を赤くして口数が減ってしまうので私もさすがに凹んでしまう。


すると今度は赤かった顔が一気に青く冷めて固まってしまった。
何事かと思っていると手に持っていたスプーンが一瞬で奪われた。

「うまい!」

後ろから大きな声が聞こえて驚く。この声は煉獄さんだ。

「栄養もよく考えらている食べたらすぐに元気になるな!うまい!」

そう言って私に笑いかけてくれた煉獄さんに一瞬で心が温かくなる。

「君がいらないなら俺が全て食べよう!」
「た、食べます!いただきます!」
「あ...、お怪我が酷くなりますよ!無理なさらないでください」
「大丈夫です!いただきます!」

急いで片腕で食べ始めた隊士さん。すぐさまお皿は空になった。早い。

「ご馳走様でした!美味しかったです」
「お粗末さまでした」

私が笑いかけてお皿を片付けると隊士さんはまた顔を赤くした後、煉獄さんを見てまた青ざめた。不思議な人だ。

お盆を持ちながら厨房へ戻ると煉獄さんも着いてきた。

「煉獄さんもどこかお怪我されたのですか...?大丈夫ですか?」
「心配ない!元気いっぱいだ!」
「…よかったです」

ほっとしたのを感じたのか煉獄さんは私の頭に手を置いた。

「安心しろ。俺は必ず帰ってくる」

その言葉に目頭が熱くなった。だめだめ。ここで泣いちゃ。

「それでは、どうしてここに?」
「あぁ、今回の任務で怪我した隊士の様子を見に」
「そうなんですね」

やっぱり優しいなぁ煉獄さん。

「それから、君に会いに」

ばっと顔を上げると、優しい顔をした煉獄さんの表情が見えた。違う違う。きっと隊士さんと同じように心配してくれてるだけだ。

「腕も動かせるようになってよかった。だが、まだ無理は禁物だぞ」

ほらね。彼は優しいから誰にでもこうして平等に接してくれるだけだ。

「ありがとうございます。でも平気ですよ。私も皆さんのお役に立ちたいんです」


そう言えば、煉獄さんは頭に乗せていた手をわしゃわしゃと撫で回した。

「わぁ!煉獄さん髪が乱れちゃいます...!」
「あはは!よもやよもや!本当に君は愛らしいな」

あい...?!え?!今なんて?!
大きな手で上を見れない。しばらくして手が止まって影が覆った。

「だが、さっきのようにあまり簡単に男に隙を見せるんじゃないぞ」
「え...?」


私が前を見れた時にはもう煉獄さんは見えなくて、頭に温もりだけが残った。
隙...?とはなんだろうか。しばらくぼーっとしていたら、あらあらと笑う穏やかな声が聞こえた。

「せっかくの綺麗な髪が台無しです」
「しのぶさん...」

乱れた髪を直してくれるしのぶさんに、先程の言葉を問う。


「私、何か変なことしてましたかね...」
「いいえ。名前さんはよくやってくれてますよ。隊士たちも喜んでます。特に男性ですが」
「えっと...」
「まぁ、煉獄さんのためにあなたに一つ言えることは、男に気安く甘やかす行動をするなと言うことでしょうか」
「...??」

「私も心配になりますね」と呟いた後に、しばらく厨房から出るなと言われて隊士さんに会うことは無くなってしまった。やっぱり変なことしてたんじゃ...と落ち込むけれど、しのぶさんにあなたのためですよと優しく笑いかけられたら何も言えない。自分に出来ることを精一杯やろうと気合を入れた。

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