ハナノオモカゲ。

君はミツバさんに似てるね。時折、色んな人にそんなことを言われることがあった。


誰だろうと考える間もなく、その方は沖田くんのお姉さんだと教えてくれたのは1番初めに言ってきた近藤さんだ。

ミツバ殿によく似ている。そう言った近藤さんはとても優しい顔をしていて、どこか悲しそうだった。

それもそうだ。彼女はもうこの世にはいないと教えてくれたのも近藤さんだ。
唯一無二の家族である姉にあの沖田くんも頭が上がらなかったとか。懐かしそうに、楽しそうに、そして寂しそうに話してくれた近藤さんの表情を見るだけで私は少しだけ胸がきゅっとなって精一杯だった。
この胸の違和感はなんだろう。悲しくなったのだろうか、みんなが大切に思っていたミツバさんの話を聞いて。似てると言われても実際亡くなった彼女はどんな人かも分からない。私なんかよりもっとしっかりしていて、穏やかで、綺麗な女性だったに違いない。

似てる……なんて、私はミツバさんのようには、きっとなれない。

まるで語りかけるように夢を見たのはその日の夜だ。小さな沖田くんが泣いていた。そんな夢。

私は沖田くんのことを何も知らないんじゃないかとほんの少しだけ寂しくなった。沖田くんはふと寂しそうな顔をする。私はその横顔を見て胸が苦しくなるのだ。彼は頑固で強がりだ。弱みなんて滅多に見せない。だからこそ、大切な人の支えになりたいと思うことは当たり前だと思う。


「何探してんだ?」
「え…と、昔の写真とかあるかなって」
「写真?なんでンなもん見てェんだよ」
「なんとなく…」


ある日沖田くんが見回りで不在の時を狙って屯所にお邪魔した。そのまま沖田くんの部屋に忍び込んで過去のアルバムでもあるかと探していれば土方さんに見つかってしまった。彼は無言のまま眉を上げて不審に私を見つめる。そう言えば近藤さんも沖田くんも故郷は同じで古い付き合いだと聞いているから、彼もミツバさんのこと知っているのだろうか。


「その、…沖田くんのお姉さんのこと」
「は?それがどうした」
「いえ、知りたくて」


どんな方だったんですか?私がそう聞けば、ピクリと眉を動かした後に、煙草の煙を吹かせて、さぁな。とだけ答えて去っていった。

なんだろう。どうしてこんなにも胸が痛いんだろう。私は、触れてはいけないものに手を翳している気がする。立ちすくむように何も出来ない私はまるで忘れ咲きの花のように。私は、彼のことを何も知らないほうがいいのだろうか。その方がみんな幸せのまま普通の寧日を過ごすことができるのだろうか。


「あれ?名前さん?」


声をかけてくれたのは山崎さん。手を上げてにこにこと笑顔を向けてくれている。


「どうしたんですか?ボーッとして。あ、沖田隊長はまだ戻らないんですけど、お茶でも飲んで待ってたらすぐ会えると思いますよ」


優しく話しかけてくれる山崎さんは気を回してくれて何故か申し訳なくなってきた。


「ううん。もう帰ります。ありがとうございました」
「え、いいの?」
「はい。お邪魔しました」
「はは、そんな律儀にお礼しなくてもいいのに」


山崎さん特有の壁のない笑みを浮かべる。


「あ、そうだ。良かったら家まで送りますよ。俺も今から見回りに出るので」
「そんな。お手を煩わせるには行きません」
「大丈夫ですよ。ついでなので」



この流れはいつもの感じな気がする。最近はよく山崎さんが送ってくれる。



「なんだァお前ら。仲良しだねェ」
「銀さん、お久しぶりです」


道で銀さんに出会う。


「ンなとこ見つかったらあのドS王子が黙ってねェんじゃないの」
「誤解ですよ旦那」
「へーへー。名前、上手いように丸め込まれるなよ」
「山崎さんはそんな人じゃないですよ」


気だるそうに耳くそをふっと小指から吹き飛ばした。


「でもやっぱり申し訳ないのでここで大丈夫です」


「ありがとうございます、山崎さん」と頭を下げれば山崎さんは、そっか、分かった。と笑ってくれた。


「やっぱり名前ちゃんはミツバさんに似てるね」


その言葉がぐるぐると頭を巡るミツバさんの存在。それがずっと私を支配した。


「名前?どうしたんだボーッとして」
「あ…なんでもないです」



そう答えてから銀さんは私を黙って見つめた後、そ。と一言零して歩き始めたので慌てて着いていく。


「え?なに?今度は俺に死亡フラグ立てる気?サド王子に見つかったら俺が殺されるんだって」
「そうなんですか?」
「そうなんですか?じゃねェよ。お前家こっちなの?それならまだ許されるかもしんないけどさ」
「家は逆方向です。なんとなく着いてきちゃいました」
「バッカのお前!?雛鳥か!嫌だよ俺!こんなド天然のカルガモの雛みたいに着いて来られただけで殺されんの!」
「私は雛じゃありません」
「んなこたァ知ってるよ!!お前ほんっとたまに抜けてるよな!なんなの?!働きすぎ?!」



なんとなく着いてきたのもあるけれど、少し誰かのそばに居たかった。銀さんはひとしきりツッコんだ後、ため息をついてだまって前を向いた。歩くペースが少し遅くなる。私に合わせてくれている。受け入れてくれたようで、銀さんだとなおさら安心だった。



「んで?お悩み相談の内容は?」
「え…?」


歩きながら銀さんはそう言った。全てお見通しのようだ。


「……やっぱりなんでもないです」


すみません。着いてきちゃって。笑いながら言うと銀さんがため息をつく。


「お前、あれだな。沖田のネーチャンに似てんな」


ピクリ、と反応してしまった私を銀さんは見逃さなかったのかもしれない。


「そーだなー、ほんとに出来たネーチャンだったよ。いっつもニコニコして弟の心配ばっかして」
「……」
「ま、俺もほぼ初対面みたいなもんだから詳しくは知らねぇがな」
「……」
「気になるなら本人に聞けよ」
「…聞けるわけないじゃないですか…」


親しい者が失ったこともない。だから軽々しくそんなこと言えない。彼にとっては唯一無二の家族だった人。その傷は計り知れない。私がその領域に触れられるわけがない。


「んなことねぇって。だってあいつが…」
「銀さん?!」


ドカァン!と音が鳴ったと同時に銀さんが吹き飛んでいく。パッと砂埃が収まって顔を上げればだるそうに右肩にバズーカーを持った沖田くんの姿が。


「何やってんですかぃ。ほいほい汚ぇ天パに着いていくんじゃねぇよ」
「誰が汚ぇ天パだゴラァ!!」


立ち上がった銀さんに駆け寄る。バズーカー撃たれて元気そうにしてるのも謎だけれど。


「沖田くん!危ないじゃないですか!」


そう言った私に沖田くんは少し目を見開いて黙って背を向けた。少し歩いて私を一瞥する。着いてこいと言っているようで、銀さんは行けよ。と視線を向けた。


辿り着いたのは小さな墓地。その前に沖田ミツバ。と掘られた墓石があった。


「俺、両親の記憶なんてほとんどねぇ。物心ついた頃からずっと姉上が面倒を見てくれた。ただ、姉上は病弱で」


沖田くんはぽつりぽつりと話してくれた。私は頷くことしかできなかった。


「適わねぇんでさァ。優しいくせに、頑固で、真っ直ぐな強さを持ってるアンタには」
「え…?」
「姉上に似てるって思うこともあるが、俺はそんな名前さんに惚れてんでィ」



さわ、と風が吹き抜けた。墓石に飾られた花がゆらゆらと揺れる。
そうだ。私が気になって悩んでいたのは沖田くんとミツバさんの過去じゃない。ミツバさんに似てる。そう言われて、私自身を見てもらえてないような気がしたんだ。それが寂しくて、悲しくなったんだ。

でもそんなことなかった。悩むことなんてなかった。みんなもミツバさんのことを大切にしていて、そしてミツバさんがいたからこそ沖田くんも強く生きてくれていて。そして私をまた受け入れてくれて。

だから私も沖田くんの傷も全部受け入れたい。そしてミツバさんがしていたように、私は私にできることで彼の支えになりたい。そう思った。


「わぁ!綺麗な方ですね」
「あぁ。ほんとよく出来た人だったなぁ。名前ちゃんも別嬪さんだぞ!」



近藤さんに素直に昔の写真を見たいと言えば嬉しそうに見せてくれた。




「あ、これ小さい頃の沖田くんですか?」
「おう!今にも負けず劣らずやんちゃだったな!」
「ふふ、ちょっと不貞腐れてる。かわいい」
「おい。何勝手に見てんですかぃ」



見回りから帰ってきた沖田くんに見つかって散々嫌がられたけど私が譲らなかったので拗ねたように縁側に座っている。
その横顔が写真の不貞腐れた沖田くんとそっくりで何も変わってないなって微笑ましかった。


「名前ちゃん」
「はい?」
「これからも、ずっと総悟のそばにいてやってくれ」



近藤さんにそう言われてなんだか気持ちがスッキリした。
ミツバさんに似てるね。その言葉は、ミツバさんの変わりとして言われたわけじゃない。私は私として見てくれて、その中にある優しさを沖田くんのそばに置いておけることに、彼らは安心を思ったのだろう。

私は私らしく、沖田くんが言ってくれたように、この写真のように、沖田くんとの人生を、思い出の続きを作り続けていきたい。

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