「お尋ね申す」
「いらっしゃいませ」
深く被った笠を少し上げて現れたのは長い長髪の男性と後ろには白い不思議な生き物が立っていた。
「ここが江戸一番の甘味屋と伺ったのだが」
「はい…?」
なんとも真面目な顔をして言われたものだから少し戸惑う。
「江戸一番と言われるのは恐れ多いのですが…」
「ふむ。ここの団子が美味いのだろう。あと今はばぁむくーへんというものが流行っていると志士たちの中で聞いたのだがそれはあるだろうか」
「……?ばぁむ……あぁ、バームクーヘンですか?」
「ばぁむくーへんではない。桂だ」
「?????えっと、一応プレーンしかないのですが」
「プレーンじゃない。桂だ」
「?????」
桂?さん?というのだろうか。
「桂さん。じゃぁプレーン味にしますね」
「桂じゃない。桂……あぁ、合っている」
「個包装にしてあるものならこちらにありますがよろしいですか?」
「ならばそれをいただこう。あと新作の団子を2つと…ん?なんだエリザベス。こっちの黒ごまがいいいのか?えーと、すいません。黒ごまも追加で」
「かしこまりました」
不思議な生き物はプラカードに文字を書いて会話をしている。いかにも不思議な空間だ。
クールな佇まいにも関わらず壁を感じない雰囲気にどこか銀さんのような感じがする。
「世話になった」
そう言って桂さんは何度か通ってくれるようになった。お仲間さん達の話題に着いていきたいそうで、流行りのお菓子やら甘味処を知りたいそうだ。
「いや〜今日もここの団子は美味いねぇ」
「銀さんのお団子は糖分多いから気をつけてくださいね」
「へいへい」
ニコリと笑って返すと銀さんは変わらず新しい団子に手を伸ばした。
「名前ちゃん、今日も早めに上がっていいよ」
「あ、すみません…。いつも気にしてくださって」
「なに?デートの待ち合わせ?」
「違いますよ。沖田くんは最近来れないみたいです」
「え?なになに?また喧嘩的な?」
「最近お仕事が忙しいみたいで。少し前に足を怪我しちゃったとか……お見舞いにこれだけ持っていくつもりです」
「へーえ。あの沖田くんがねぇ」
後片付けをする。
「銀さんよかったら名前ちゃん送ってやってくれよ」
「あ?」
「最近物騒なんだよ。攘夷浪士が暴れてるって。沖田くんも怪我しちまってさ。だけど心配だから名前ちゃんには遅くまで出歩くなって、日が暮れる前に帰ってもらえって言われてね」
「あいつも過保護だねぇ」
沖田くんより銀さんの方がよく顔を合わせているかもしれない。
「お尋ね申す」
「いらっしゃいませ」
再び現れた深く被った笠を少し上げて現れたのは長い長髪の男性と後ろには白い不思議な生き物が立っていた。隣で銀さんが苦虫を噛み潰したような声を上げる。
「桂さん。来てくれたんですね」
「うむ。今度はがとーしょこらというものを買いたいのだが…む?銀時ではないか」
「なんでてめーがいんだよ。お前甘いもの好きじゃねぇだろ」
「お知り合いなんですか?やっぱりどこか似たような雰囲気を感じました」
「ふっ。やはり貴様は辿り着いていたか。この江戸一番の甘味屋に。彼女は素晴らしい。俺が頼んだ甘味をいとも簡単に作り出すのだ」
「おい名前。こんなバカと関わるな。バカが移る」
「桂さんはお仲間さん達の話題に着いていきたくて今流行ってるお菓子とか甘味を知りたいみたいです。勉強熱心ですよね」
「相変わらずてめーは何やってんだ!もっとまともなこと勉強しろよ!」
「ごめんなさい桂さん。今日は私帰らなくちゃ」
「そうか。仕方ない」
「はい。それじゃ」
「あ、まて」
「はい?」
「銀時。彼女を送ってやってくれ」
「あ?おめーまで何言い出すんだ」
「念の為だ」
銀さんに送ってもらう。
銀さんに送ってもらい、店の裏口で暖簾を下ろす。
夕焼けがすっかり沈み、街灯が一つずつ灯り始めていた。
「それじゃ、ここまでで大丈夫です」
「本当に?遠慮すんなよ」
「はい。ありがとうございます」
そう言って頭を下げると、銀さんは少しだけ目を細めた。
そう言って、銀さんはひらりと手を振る。
「ほら、さっさと帰れ。夜は物騒だ」
仕事を終えて帰宅しようとした前。
閉店作業を終えて路地裏にゴミを捨てに出る。
青いポリバケツにゴミ袋を入れて、一息ついたとき、突然背後から口を塞がれ、身体も囚われて身動き出来なくなる。
「悪いなお嬢さん。これも真選組をおびき寄せるためだ」
口元の布には薬が含まれていたのだろう。意識が遠のき始め、最後に聞こえたのは真選組という単語が耳に残っていた。
目を開ければ金属と金属がぶつかり合う音。
そこには真選組の隊士達と攘夷志士が乱闘していた。
「君、沖田隊長の恋人なんだって?人質には丁度いいと思ってね」
ほらみて。と指の先には沖田くんが血塗れで息を切らして座り込んでいた。
「沖田くん…!!」
名前を呼ぶと彼はハッとこちらを見上げた。
「名前さん、」
「ここまで効果的だと思わなかったよ。だってあの沖田隊長に女がいるなんて最初は幻かと。だけどこんなに取り乱すとはよっぽど君のことが大切なんだね。いい人質だ。役に立ってくれてありがとう」
そう言われて頭に手を置かれると沖田くんは眉間に皺を寄せて刀を握った。
「テメェ…汚ぇ手でそいつに触るんじゃねぇ」
あっという間に攘夷志士を蹴散らして隣の男に切りかかる。
「沖田くん…!血が…!」
刀に力を入れる度に彼の身体中から血が溢れ、黒い隊服からも分かるほどに、足元にもあっという間に血溜まりができる。
きっとまだ数日前の傷も癒えていない。このままでは死んでしまう。
そんなことを考えると瞳から涙が止まらなくなった。私のせいだ。私が捕まったから。
「沖田くん…!やめて…死んでしまう…」
「こんなヤツらなんか相手にもならねぇ」
沖田くんはにっこりを笑う。
「俺たち真選組に喧嘩売ったのが残念だったな」
大きく振り下ろした刀が柱ごと壊れ、私の縄も解けたが体が落ちながら空中を舞う。
「名前!!!!」
沖田くんのその声と差し出された手をとった。
「た、大変です!」
ドタバタとうるさく足音を立てて扉を開けたのは山崎。
「うるせぇなぁ。なんだ」
「名前さんが!攘夷志士に攫われました!」
その言葉を聞いた途端に沖田が刀を持って走り出す。
「おい総悟!1人で行ってどうするつもりだ!」
「止めねぇでください!」
(まだ……治ってないのに……)
「……私のせいだ……」
捕まったのは、私。
巻き込んだのも、私。
「沖田くん……やめて……」
「死んでしまう……!」
涙が止まらない。
それでも、彼は笑った。
「こんな奴ら、相手にもなりやせん」
その笑顔が、怖かった。
「俺たち真選組に喧嘩売ったのが、残念だったな」
――次の瞬間。
刀が大きく振り下ろされ、
柱ごと、縄が断ち切られる。
「……っ!」
身体が宙に浮く。
「名前!!!!」
叫ばれた名前。
伸ばされた手を、必死に掴んだ。
(――――生きて)
その想いだけで、胸がいっぱいになった。
伸ばされた手を掴んだ瞬間、強く引き寄せられた。
「……っ」
胸にぶつかる衝撃。
聞こえたのは、荒い呼吸と心臓の音。
「……無事か」
低く、掠れた声。
それだけで、張り詰めていたものが一気に崩れた。
「……沖田くん……」
指先が、震える。
彼の隊服は、私の知らない赤で濡れていた。
「動けるか」
「……はい……」
返事をするのが精一杯だった。
その背後で、再び刃が交わる音がする。
「チッ……!」
沖田くんは私を庇うように前へ出る。
足元が、僅かにふらついた。
(だめ……)
「沖田くん……もう……!」
言葉より先に、彼の膝が落ちた。
「……総悟!」
聞き慣れた声。
扉を蹴破るようにして現れたのは、真選組の隊士たち。
「遅ぇぞ……」
そう悪態をつきながらも、沖田くんは刀を離さない。
「おいおい、無茶しすぎだろ」
軽い調子の声と共に、もう一人、前に出てくる。
「銀、さん……」
その隣には――
「……間に合ったようだな」
深く被った笠。
長い髪。
そして、隣に立つ白い不思議な生き物。
「桂……さん……」
彼は一瞬だけ、こちらを見ると、静かに頷いた。
「怪我はないか」
「……はい」
それだけで、不思議と安心した。
「やはり、か」
桂さんは攘夷志士の一人を見据える。
「最近、動きが荒いと思っていた」
「真選組を誘き寄せるために、一般人に手を出すとはな」
「……裏切り者が」
攘夷志士が吐き捨てる。
「違う」
桂さんの声は、低く、静かだった。
「理念を忘れた者を、攘夷とは呼ばない」
次の瞬間、銀さんと真選組が一気に動いた。
――あっという間だった。
刃が交わり、怒号が響き、
気づけば、床に倒れる攘夷志士たち。
「……終わった、の……?」
その場にへたり込んだ私の前に、影が落ちる。
「名前」
沖田くんだった。
顔色は、青い。
立っているのが、やっとだ。
「……ごめんなさい……」
声が、震える。
「私が……弱いから……」
「みんなに……怪我を……」
言い終わる前に、頭に温かい手が置かれた。
「何言ってんだ」
銀さんだった。
「誰も、お前のせいだなんて思ってねぇよ」
「俺たちはな」
ぐしゃぐしゃと、乱暴だけど優しい手つき。
「お前が大事だから、来たんだ」
「……銀さん……」
涙が、止まらなかった。
「無事で何よりだ」
桂さんが、静かに言う。
「今後は、俺も注意しておこう」
「君を利用しようとする輩が、また出るかもしれん」
「……ありがとうございます」
その言葉を聞いて、沖田くんの肩が、僅かに強張った。
「……旦那」
掠れた声で、沖田くんが言う。
「桂……」
「礼は言いやせんぜ」
「ふん」
桂さんは小さく鼻を鳴らす。
「李灯から、死ぬほどもらったからな」
「それで十分だ」
「……え?」
私が首を傾げると、銀さんが肩をすくめる。
「命の恩人ってやつだな」
「……」
桂さんは、沖田くんをまっすぐ見た。
「奪われたくないのなら」
「よく気をつけておくことだな」
その言葉に、沖田くんの目が、僅かに細まる。
「……言われなくても」
ふらつきながらも、私の前に立つ。
「この人は」
「俺が守りやす」
その背中が、ひどく頼もしくて、
同時に、ひどく痛々しかった。
(……この人は、私のせいで……)
でも。
その背中越しに、確かに感じた。
騒ぎが収まり、隊士たちが後始末を始める中で、私は少し離れた場所に腰を下ろしていた。
身体は無事でも、心が追いついていない。
指先がまだ冷たい。
「……大丈夫か」
声をかけられて顔を上げると、そこには桂さんが立っていた。
笠を外し、穏やかな表情でこちらを見ている。
「はい……ありがとうございます」
「助けていただいて……」
「礼を言われるようなことはしていない」
そう言って、私の目線に合わせるように少し腰を落とす。
「怖かっただろう」
「……正直に言うと、はい」
小さく笑って答えると、桂さんは一瞬だけ目を伏せた。
「すまない」
「本来なら、俺たちがもっと早く気づくべきだった」
「桂さんのせいじゃありません」
「むしろ……」
言葉を選びながら続ける。
「桂さんが、変な動きをしている攘夷志士がいるって、前から警戒してくれていたって聞きました」
「……それだけで、少し安心しました」
「君は……」
「不思議な娘だな」
そう言って、ふっと柔らかく笑う。
「恐怖の中に放り込まれても」
「誰かを恨むより、まず自分を責める」
胸が、ちくりと痛んだ。
「……でも、それは美徳だ」
「同時に、危うい」
桂さんは静かに続ける。
「守られることを、悪いことだと思うな」
「君は、守られていい」
その言葉に、喉が詰まった。
「……ありがとうございます」
桂さんは、ちらりと視線を横に向けた。
少し離れた場所で、隊士に支えられながら立っている沖田くん。
こちらを見ているようで、見ていないような、そんな視線。
一拍置いて、低い声で言う。
思わず、苦笑してしまった。
「……はい、なんとなく」
「俺が君に友好的なのも」
「あまり面白くないだろうな」
その瞬間、視線の先で、沖田くんの眉がわずかに動いた。
(……見てる)
「安心しろ」
桂さんは、私にだけ聞こえる声で言う。
「俺は君を攫わない」
「守るだけだ」
「……はい」
「だが」
沖田くんの方を、まっすぐ見据える。
そう言い残し、桂さんは静かに立ち上がった。
――――――――――――――――――――
その夜。
屯所の医務室の前で、私は一人、座っていた。
中からは、微かに薬の匂いと、布の擦れる音がする。
「……」
声をかけたいのに、かけられない。
(私がいなければ……)
(沖田くん、あんな無茶しなかったかもしれない)
扉が、きぃ、と音を立てて開いた。
「……まだ帰ってなかったんですかぃ」
沖田くんだった。
包帯だらけで、顔色も良くないのに、いつもの調子を装っている。
「はい……心配で」
「大げさでさァ。この程度、かすり傷ですぜ」
「……嘘です」
ぽつりと零すと、彼は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……」
沈黙が落ちる。
勇気を出して、口を開いた。
「私が……私が捕まったせいで……」
喉が詰まって、言葉が続かない。
頭を下げようとすると、すぐに低い声が落ちてきた。
「それ以上言ったら、怒りやすぜ」
「……」
「守れなかったのは、俺の方でさァ」
目を開けた沖田くんは、いつもよりずっと静かな瞳をしていた。
「本当は、怪我してる姿なんて見せたくなかった」
「……」
「余計な心配させるのも、迷惑かけるのも、嫌だった」
ぎゅっと、拳を握る。
「だから距離置いたつもりだったんでさァ」
「……」
「そしたらこれだ」
自嘲気味に笑う。
「結局、危ない目に遭わせちまった」
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「……私も」
「?」
「私も、同じこと思ってました」
沖田くんの目が、わずかに見開かれる。
「沖田くんの世界、私の知らないことばかりで」
「……」
「関わることで、足を引っ張るんじゃないかって……迷惑なんじゃないかって」
ぽつり、ぽつりと零れる言葉。
「だから……会いに行けませんでした」
沈黙。
しばらくして、沖田くんが小さく息を吐いた。
「……バカでさァ」
「え……」
「お互い、同じことで勝手に悩んで、勝手に距離置いて」
ゆっくりと、こちらを見る。
「それでも俺は」
「……」
「アンタが傷つくの、耐えられなかった」
その言葉が、胸に深く落ちた。
「俺の仕事は、人を斬ることだ」
「……」
「でも、アンタだけは、血に染めたくねぇ」
そっと、包帯だらけの手が伸びてきて、私の袖を掴む。
「だから」
一瞬、言葉を探すように間が空く。
「……勝手に、俺の大事な人扱いするの、許してくだせぇ」
告白じゃない。
でも、これ以上ないほど、真っ直ぐな言葉。
涙が、静かに頬を伝った。
「……はい」
「……」
「それなら私も、勝手に心配します」
「は?」
小さく、笑ってしまう。
「沖田くんが無茶したら、怒ります」
「……怖ぇなァ」
「それでも、そばにいます」
一瞬、目を逸らしてから、沖田くんは小さく笑った。
低く、静かな声。
沖田くんは、一歩、近づいた。
「俺は」
その距離が、近い。
「離れる気なんざ、これっぽっちもねぇ」
包帯の巻かれた手が、私の手首を掴む。
「怖ぇなら、俺の傍にいなせぇ」
強くはない。
でも、逃がさない力。
「守れなくなる距離の方が、俺は我慢ならねぇ」
顔を上げると、真剣な目がそこにあった。
「……すみません」
「謝るな」
低く、優しい声。
その言葉に、胸が締めつけられた。
医務室の明かりが、夜の廊下に滲んでいた。
「……もう、戻りなせぇ」
そう言われても、足は動かなかった。
「嫌です。沖田くん、まだ顔色悪いです」
「しつこい女でさァ」
そう言いながらも、追い返す気はないらしい。
畳に腰を下ろした彼の隣に、私はそっと座った。
しばらく、何も話さない時間が続く。
外では、夜風が木々を揺らしている。
「……なぁ」
低い声。
「今日のこと怖かったでしょ」
「……はい」
正直に答えると、沖田くんは小さく息を吐いた。
「俺は」
「怖ぇ思いさせたくなかった」
「……」
「なのに」
「結果がこれでさァ」
包帯の巻かれた手を、きゅっと握る。
「情けねぇ」
初めて聞いた言葉だった。
沖田くんの口から、そんな言葉が出るなんて。
「……情けなくなんてないです」
「いや」
首を横に振る。
「俺、あんたが捕まったって聞いた瞬間」
「頭、真っ白になった」
少し間を置いて、続ける。
「剣振るうより先に」
「無事かどうかしか考えてなかった」
視線が、床に落ちる。
「隊長としては」
「最悪でさァ」
「……」
「守るって言っておきながら」
「一番大事なとこ、守れてねぇ」
胸が、ぎゅっと痛んだ。
「……沖田くん」
名前を呼ぶと、彼は僅かに肩を揺らした。
「桂がな」
ぽつり、と。
「俺より先に」
「あんたを気にしてやがった」
「……」
「旦那も当たり前みたいに、頭撫でて」
その声には、悔しさが滲んでいる。
「分かってんでさァ、みんな味方だって」
「……でも」
やっと、こちらを見る。
「俺が一番でいたい」
その視線が、まっすぐで、弱くて、真剣で。
「……そんなこと思う自分がガキみてぇで、嫌になる」
しばらく、言葉が出なかった。
私は、そっと手を伸ばす。
包帯を避けて、彼の指先に触れる。
「……沖田くん」
声が、震える。
「それ、弱さじゃないです」
「大切に思ってる証拠です」
「……」
「私、沖田くんがそんなふうに悩んでるなんて今日まで、知りませんでした」
指先に、わずかな力が返ってくる。
「……見せたくなかったんでさァ」
苦笑。
「頼りないとこ。全部」
「……でも」
彼の手を、そっと包む。
「見せてくれて、嬉しいです」
「私にだけ、ですよね」
一瞬、目を見開いて。
「……あぁ」
小さく、認める。
「他の奴らには死んでも言わねぇ」
その言葉が、胸に落ちた。
「……じゃあ」
少しだけ、距離を詰める。
「今日はここにいさせてください」
「……何しに」
「一緒に、弱ってるだけです」
ふ、と。
沖田くんが、初めて力を抜いたように笑った。
「……ずりぃ」
額を、軽く私の肩に預ける。
「こんなん反則でさァ」
肩越しに感じる、体温。
規則的じゃない呼吸。
(……この人は)
強くて、危うくて、
でも、ちゃんと人なんだ。
「……李灯」
名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。
「今日は行かねぇで」
それは命令でも、冗談でもなく。
ただの、お願いだった。
「……はい」
小さく答えると、
彼はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、離れないように。
指先だけ、繋いだまま。