かみあわないふたり

 少し前からふたりきりになると、ボーは私を強く抱きしめるようになった。別に嫌じゃない。むしろ、うれしい。私はずっとボーのことが好きだったんだから。強く抱きしめている間、ボーは私に「好きだ……好きなんだ」と囁く。このときのボーに話しかけても、反応はない。ただ囁き、抱きしめるだけ。体が離されると、いつものボーに戻っている。それが少し寂しかった。
 今日もまた、強く抱きしめられていた。体が離される。ボーは少しばつの悪そうな表情を浮かべていた。
 この際、思いきって聞いてみることにした。
「私のこと、好きなの?」
「あ?」
 すっかりいつものボーだ。なんでそんなこと聞くんだよって顔してる。先ほどまで耳元で囁いていたのは全くの別人だったのだろうか。
「私も好きだよ、ボーのこと」
 次の瞬間、ボーが私の首筋に噛みついた。かまれたところがすごく痛い。血が出てしまっているかもしれない。
 どうしてこんなことをするんだろう。私はすっかり、ボーのことが分からなくなってしまっていた。それでもなお、ボーへの気持ちが薄れないのも不思議だった。


 俺は、自分の気持ちを抑えられなくなっていた。気が付けば、ユラを抱きしめている。自分の気持ちを明かしている。そのときに、あいつに「どうしたの?」なんて言われると、無性に腹が立った。どうしたもこうしたもねえ。好きだって言ってるのが聞こえないわけじゃないだろ。
 ユラは、俺のことをどう思ってるのか、ずっと気になっていた。でも、聞きたくないような気もしていた。もし、ほかのだれかのことが好きだったら――。そんなことが頭をよぎる。でもあいつは、抱きしめられて嫌そうな顔をしない。振り払おうともしない。そのたびに、期待しちまう。もしかしたらって。
「私も好きだよ、ボーのこと」
 その言葉を聞いたとき、俺はあいつの首筋に噛みついていた。俺がユラのことを好きで、ユラも俺のことを好きなら、その証がいる。そう思ったんだ。噛み跡を残しておけば、こいつが誰のものかまではわからずとも、誰かのものであることを示せる。
 強く噛みすぎたせいか、ユラの瞳が潤んでいる。でもやはり、嫌がらない。いきなり首に噛みついたんだぞ。お前が泣きそうになるくらい強く。それなのになんで嫌がらないんだ。俺はどこまで、お前を愛しても許されるんだ?