「どうしても、眠らなくてはいけないの?」
ユラは、そう言って、彼を見た。彼は、いつものように何も言わず、ただ頷いた。
「そう……次会えるのは、23年後になるのね」
彼はまた、何も言わず頷く。
本音を言えば、何か言ってほしかった。けれど、彼がしゃべったところなんて見たことがない。獣のように吠えるのは見たことがあるけれど、言葉を発しているところは見たことがなかった。今のような姿になるときに、人間の言葉をなくしてしまったのかもしれない。
「その頃は……私、きっともう若くはないわ。あなたに会いたくない」
本当は会いたい。だが、置いた自分の姿を見られるのは嫌だった。今の姿だけ、彼の中に残っていればいい。それに、もし、彼が他の人を愛するようになったら……。
いつの間にか、ユラの頬を涙が濡らしていた。それを彼が優しく手でぬぐう。
「私のこと、忘れないでね。私があなたのことを愛していたこと、きっと忘れないでね」
彼が優しくユラの額にキスを落とす。
「あなたのこと、私も絶対に忘れない。でも、でも……」
彼が心なしか、ほほ笑んだように思えた。
「愛してる」
それが、初めて聞いた彼の言葉だった。短くて、シンプルなたった一言。でも、それだけで心が満たされていくのがわかった。たとえ、23年後の自分がどんなであっても、きっと彼に会いに来るだろう。そして、彼は自分を今と変わらず愛してくれるだろう。さらに、その23年後も……。
「私もよ」
地中に潜っていく彼にそうつぶやいた。