町に着くと、ボーはスーパーマーケットの駐車場に車を止めた。大きな店舗だ。ここなら食品以外も豊富だろうから、ヴィンセントの砥石もあるかもしれない。車から降りると、ユラはボーに引っ付くようにして歩いた。
「なんだよ」
「ご、ごめん……。でも、初めて来るところだし、こんなに生きている人を見るのも久しぶりだし……とにかく緊張しているの」
ボーはそんなユラを鼻で笑った。
「そんなんじゃ、クッキーやチョコレートはいつまでたっても買えないぞ」
「それもそうね。頑張らなくちゃ」
ボーはカートを一つ取ってくると、本日セールと書かれたオレンジジュースを3本入れた。
「好きね」
「別にいいだろ。それよりお前、買い物の仕方ちゃんとわかってるのか?」
「わかってるわよ。町が寂れるまではおつかいとかしてたんだから」
懐かしい、アンブローズにまだ人がたくさんいたころ。アンブローズにある店は、この店みたいに大きなものじゃなかったけれど、必要なものはちゃんと売っていた。人々の生活には必要不可欠な店だった。今はもう、形として店が残っているだけで、店員も客もいない。
「そういえば、もう包帯がなかったわ。消毒液も買っておいた方がいいんじゃない? いつケガするかわからないし」
「そうだな。……そういえば、もう足のケガはいいのか?」
ユラはヴィンセントが「僕たちみんな、その傷はトムにやられたんだって思ってた」と出かける前に話していたのを思い出した。ボーもそう思っているんだろう。
「大丈夫。そんなに深くは切らなかったから」
「切らなかった? あいつにやられたんじゃなかったのかよ」
「自分で切ったの。“あいつ”を油断させるためにね。結局、私は何の役にも立たなかったけど」
「……。そうだな、今度からあんな無茶な真似は絶対にやめろよ」
ユラはため息を吐いた。たしかにあれは、捨て身の作戦とも言えた。トムにとどめを刺したのはユラだが、トムを気絶させ動きを封じたのはボーだ。これといった働きをしたとは思えない。自分で太ももまで切り付けてトムに近づく必要があったのかと問われると、苦笑いするしかない。のけ者にされたのだと思い込んだ瞬間、イライラして冷静さを欠いていたのは確かだ。あの作戦で得たものが太ももの傷以外にないわけじゃない。のけ者にされたわけじゃないということが分かった。でも、みんなに心配をかけさせてしまったのは事実だ。これからはもっとうまくやらなくては。
「ヴィンセントのやつは何を買ってこいって言ってたか、覚えてるか?」
ふと気が付くと、カートにはいつの間にか食料品や日用品がいっぱい入っていた。
「ええと、たしか――」
「まあ。もしかして、新婚さんですか?」
声のする方を見ると、おばあさんが嬉しそうにほほ笑んでいる。
「いや、別に……結婚はしてないんですけど」
「そうなのぉ? 仲がいいのにどこか初々しい感じだから、そうなのかななんて、ね。じゃあ、付き合い始めたばかりとか?」
ユラは苦笑いを浮かべた。どれも違う。ただの幼馴染だとすぐに言えばよかったのかもしれないが、恋仲でないことを否定するのは少し気が引けた。ボーの態度が前のままだったら即座に否定しただろうが、最近のボーは昔のようにやさしい。
「おばあさん、俺たちはただの幼馴染だ。買出しに付き合わされてるだけだよ」
ボーが笑みを浮かべている。作り笑い、だろう。作り笑い位できなければ、アンブローズのお客さんを油断させることはできない。
ただ、ボーが恋仲であることを即座に否定したのは少しショックだった。
「あらあら、そうなの。幼馴染、そういうのもいいわね」
「だから、おばあさんが思ってるような仲じゃない」
そこまではっきり言われると胸がちくりとする。たしかに、それが事実ではあるが、改めて言葉にされるとつらいものがあった。
「そう……あんまり若い人をからかっちゃ悪いわね。失礼するわ」
そう言い残しておばあさんは別の売り場へ移動した。