蝋でコーティングされた女。ヴィンセントはその女が全身に纏った蝋を削っていき、滑らかに、自然な形に整えていく。その作業は、愛撫をしているかのようにすら見えるほど、スムーズな動きで行われる。
あの女は、ヴィンセントに愛されているのかもしれない。おそらく、作品として。なんであれ、ヴィンセントに大事に扱われる女を見ていると、ユラの心はネガティヴな感情に飲まれてしまう。
「きれいな人ね」
蝋人形にされた女はきれいな女だった。顔だけでなく、体も美しい。細すぎず、かといって太っているわけでもない。男が好みそうな体型だ。
「これ、気に入ったの? 完成したら、君の部屋に運ぼうか」
ユラは肩をすくめた。
「遠慮しておく」
この女が蝋人形にされたときのことを思い出して、嫉妬という醜い感情に飲まれたユラはヴィンセントがせっかく作った作品を壊してしまうかもしれない。それに、部屋に元人間の蝋人形を置いておく趣味もない。
「そう? 結構うまくできたし、遠慮なんかしなくていいんだよ」
「遠慮なんかしてません。とてもいい感じだと思うけど、部屋には置きたくないの」
「うーん、じゃあ家の前とか……あ、キッチンも悪くないと思うよ」
「だから大丈夫だってば」
「ごめんね、ユラが僕の作品に興味を持ってくれたのがうれしくてつい。これが男の蝋人形だったら、こんなに穏やかな気持ちでいられなかっただろうけど」
「どうして?」
「う、ううん、なんでもない」
ヴィンセントの耳が赤い。なぜだかはわからないが、照れているらしい。
「作品も素敵だけど、私にとってはその作者さんの方がずっと魅力的なの」
「え? ……えっと、それって……」
「……」
ユラは頬を染めながらヴィンセントから視線をそらした。我ながら恥ずかしいことを言ったものだと後悔していた。
「じゃあ、僕をユラの部屋に置くのはどう?」
ヴィンセントの方に視線を戻す。彼はもう真っ赤になっている。
「それは……悪くないかも、ね」
2人とも照れくさそうに笑いあった。