デートプラン

「ねえ、ヴィンセント! 遊園地行きたくなぁい?」
「うーん、行きたくない、かな……」
 そういった答えが返ってくるだろうとは、ユラも予測はできていた。しかし、聞かずにはいれなかった。もしかしたら、遊園地に行きたいとヴィンセントが言ってくれるかもしれない。それは限りなくゼロに近い確率だが。
「ユラ、そんなに遊園地に行きたいなら、レスターかボーを誘えばいいよ」
「それじゃ意味ないの。ヴィンセントじゃないと。それにそんなに遊園地に行きたいってわけじゃなくて――」
「? どういうこと? 僕は――そういう人の多いところには行けないよ。普段から、人目を避けるようにしているんだし。誰かに見られるたびにボーにうるさく言われるし」
 たしかにこの前も、ボーはヴィンセントを怒鳴りつけていた。アンブローズに来た若者のうちの一人がたまたまヴィンセントの姿を見てしまい、ひどく怯えたせいで行動が読みにくくなったとかなんとか。
「そう、だね。うん……私はただ、ヴィンセントとどこか行きたいなって思ったの」
「僕と? その辺を散歩するくらいなら付き合えるけど」
「散歩って……それを散歩と呼ばないなら、それもいいけど」
 ヴィンセントは首を傾げた。
「散歩を散歩以外になんて呼ぶの? 散策? ほっつき歩き?」
「ほっつき歩きって何……そうじゃなくて、デート! デートって呼んでほしいの」
 思い切ってそういってみたものの、ヴィンセントはそのまま時間が止まってしまったようにちっとも動かないし、何もしゃべろうとしない。ユラはいますぐヴィンセントのマスクを剥がして、どんな顔をしているのか見たい、そんな衝動にかられたが――マスクの下で彼が心底迷惑そうな顔をしていたらショックでしばらく立ち直れそうにもないので、なんとか思いとどまることができた。
 代わりに、小さな声で「嫌なの?」と恐る恐る訊ねてみる。
「まさか!」
 ヴィンセントは立ち上がり、あたりをうろうろ歩き始めた。
「ちょっと、どうしたの」
「だって、デートだよ? ユラと僕が……それならあの二人の邪魔が入らないように……」
 これは自分とのデートを喜んでくれている、ということでいいのだろうか。
 突然、ヴィンセントがぴたりと歩き回るのをやめ、ユラのほうを見た。
「そうか……ごめんね、遊園地じゃなくて」
「いいの、ヴィンセント。あれは――デートの定番の場所の話をしたら、デートに誘ってるってわかってもらえるかなと思って言っただけだから。デートに誘うのがこんなに勇気のいることだとは思わなかったけど」
「……。次からは僕が君を誘う」
 ユラは恥ずかしそうに微笑んだ。彼もまた、マスクの下で似たような表情を浮かべていることだろう。