笑いのために。
そんな言葉をチャット相手に三回送り付けられると、スマイリーが来る。そして、送り付けられた人はスマイリーに殺されてしまう。そんなの、よくある都市伝説だとユラは思っていた。
ユラはよく暇つぶしにリアルタイムで顔を映しながらチャットができるサービスを利用していた。この手のサービスにはど変態がつきものだが、まれにまともな人間と楽しくおしゃべりすることができる。話すことは、どうでもいい話から、友人には話しにくい話などそのときによっていろいろだった。
ユラは今日も何度か見たくもないものを見てしまったが――ようやく、まともそうな若い女性に出会った。
《こんにちは》
《こんにちは。可愛いね》
《ありがとう。あなたも可愛い》
社交辞令とわかっていても、すこし気恥ずかしくなる。
さて、何の話をしようかと悩んでいた時、おもむろに相手の女性が笑いのためにと三回送ってきた。
「まともそうなのは見た目だけか。ガキみたいな女」
思わず毒づく。いい年して都市伝説を信じてそのうえ実行するなんて何を考えているんだろう。ユラは相手の女性をにらみつけてやった。だが、女性はそんな風ににらんでも怖くないぞ、とバカにしたようににやけている。
「まったく……」
突然、にやにやしていた女性の目が大きく見開かれた。その目は、ユラの後ろをじっと見つめている。ユラは、ゆっくりと振り返ってみた。そこには、目と口を縫い付けられたせいで常に笑顔を浮かべる噂通りの――……。
「その顔……痛くないの?」
人は強烈な非日常に触れると、かえって冷静になってしまうことがあるらしい。恐怖を紛らわすために自分は冷静だと思い込んでいるだけかもしれないが。
ユラの問いかけに、スマイリーは少し首を傾げた。じっとユラを見つめている。
「縫われてるでしょ、だから痛いのかなって……」
スマイリーはゆっくりと首を横に振った。
そのままスマイリーはユラに少しずつ近づいてくる。スマイリーに殺されてしまう。そう覚悟した時だった。スマイリーはユラとパソコンの間に入り込むような位置にくると、キーボードで何かを打ち始めた。
笑いのために、笑いのために、笑いのために……。
モニターの女性の顔が恐怖で引きつっている。そして、いつの間にか女性の背後にスマイリーがたっていた。そして、そのまま……。
ユラは目をそらした。見ていられなかった。一度目をそらすと、画面を再び見る勇気がなくなってしまった。
そんなとき、ピロンとチャットが送られてきた通知音が聞こえた。ユラは勇気を振り絞って恐る恐るモニターを見てみる。
《心配してくれてありがとう。痛くはないんだ。またね》
モニターには嬉しそうに手を振るスマイリーが映し出されていた。もうすっかり正気を失っていたユラは、笑顔でスマイリーに手を振り返すのだった。