「すっかり遅くなっちゃったなあ……」
店長の「あと少しだけ、あと少しだけ」という頼みを聞いていたら終わるころにはすっかり暗くなっていた。
それだけならまだしも、時間帯もかなり遅い。通りを歩く人はおらず、車もたまに通る程度だ。コンビニに入ると、ユラは携帯電話で母親に電話をかけた。
「ママ? 私だけど。遅くなっちゃって。迎えに来てもらえない?」
『ああ、ごめんなさい。今夜は取引先の人とディナーなの。席を外すわけにもいかないのよ、ユラ。あとでお金あげるから、タクシーでも拾って』
コンビニの中から通りを見たが、タクシーは走っていない。
タクシー会社に電話してタクシーを回してもらっても、それを待っている間に歩いて帰ることができてしまう。家は近い。
ユラはコンビニで夕飯を買うと家まで歩いて帰ることにした。
少し歩くと、自分の足音以外の足音が後ろから聞こえてくることに気が付いた。つけられている? いや、自意識過剰なだけかもしれない。ただ、後ろを歩く人も帰り道が同じ方向なだけだ。そう思おうとした。だが、もし違ったら? いきなり振り返ったら変な奴だと思われるだろうか?
考えても仕方がない。変な奴だとか、自意識過剰な奴だと思われても構わない。振り返ってしまおう。ユラは思い切って振り返った。
後ろにはキャップを深くかぶった男がいた。ユラは、その男に見覚えがあった。たしか、常連の――。
「ボー?」
「ああ、やっぱりユラだったか。人違いだったらと思って、なかなか声がかけれなかった」
「ボーでよかった。怪しい奴だったらどうしようかと」
「怖がらせちまったようだな。悪い悪い。それよりこんな時間にどうして一人でほっつき歩いてるんだ? 家まで送ってやるよ。そっちにトラックが停めてあるんだ」
「バイトでね……。お言葉に甘えちゃおうかな」
ボーは後ろに隠したロープを握りしめながら「ああ、あっちだ」とにっこりと笑った。今すぐ押さえつけてロープで縛りあげてトラックでアンブローズに連れ去りたい。店で何度も話すうちに、そう思うようになった。今夜もし、ユラが振り返らなかったら自分はどうしていただろうとボーはトラックを運転しながらぼんやりと考えるのだった。