なんだかいつもと違う。いつもなら、もっと私は上手くやれていたはずだ。モール家の母親や姉を悪者に仕立てあげ、父親にかばってもらってそれから……。とにかく、予定は台無しだ!
「ねえ、エスター。ピアノいつ教えてくれるの? エスターの都合のいいときでいいから……」
「うるさい!」
こいつだ! こいつのせいで調子がくるってしまったのだ。仕方ない。まだ時期尚早な気もするが、こいつを事故に見せかけて……。
「ごめんなさい……。エスターも忙しいわよね」
そう言うと、ユラはしょんぼりとして部屋を出て行こうとする。
もう、めんどくさいやつ!
「宿題を手伝ってくれたらいいわよ」
ユラは満面の笑みを浮かべながら、「そんなことでいいの?」なんて言いながら、私のリュックから勝手にテキストを取り出して宿題を始めた。
まったく……。私は何をしているんだろう。
そのとき、下の階から「ユラーー」という聞いたことのない男の声がした。
「デイビッド?」
ユラがその声に反応して顔をあげる。ちょっと……デイビッドって誰よ。
階段を上がってきた“デイビッド”はユラを見つけると、嬉しそうに「いま、おもしろいホラー映画やってるんだよ。なあ、一緒に観に行こうよ」と言った。
「デイビッド、わざわざ来てくれたのに悪いけど……今日はダメよ」
「はぁ? なんでだよ……てか何やってるんだよ」
私の宿題を一生懸命取り組んでいるユラをみてデイビッドは舌打ちした。
「それ妹の宿題じゃないか。最近おまえ、学校でも妹の話しかしないし……」
ユラが私の話を学校で?
なんて皆に話してるんだろう?
「ずっと妹が欲しかったのはわかるけど、甘やかしすぎだろ? おい、エスター、宿題くらい自分でやれよ」
「デイビッド! うるさいわ、もう帰ってよ。映画はまた今度。私から連絡するから……」
「わかったよ……じゃあな、ユラ。それからエスター」
デイビッドは嫌味たっぷりと言った感じで私の方を見ながらそう言った。フン、負け犬め。ユラはおまえじゃなくて私を選んだんだ。とっとと失せろっての。
デイビッドが帰った後、ユラはため息を吐いた。
「エスター、ごめんね。悪い奴じゃないんだけど」
「デイビッドはユラの友達なの?」
「うーん、幼馴染、かな。近所に住んでるのよ」
「へえ、どの辺に住んでるの?」
「えっとね、通りを出て……」
ふーん、そこに住んでるのね。ユラはデイビッドのことをなんとも思っていないようだけど、あいつは絶対ユラに気がある。
「エスター? どこ行くの?」
「ちょっとね」
ユラ、何も知らなくてもいいわ。でも、全部あなたのせいよ。あなたのせいで私は……。