『このお花綺麗ね〜、2つ苗を頂けるかしら?』
名前は街へ買い物に来ていた。
『(庭に植えるのが楽しいだわ)』
そんな事を思いながら、黒を基調に、金色の刺繍が目立つドレスを身に纏い、賑やかなポートロイヤルの街並みを歩いていると──────
「ママー!!!ママー!!!!どこなのー!!!!」
泣きそうになりながら必死に母親を探す子どもがいた。
『(あら…迷子かしら?)』
名前はその小さな男の子のそばへ駆け寄る。
『ママとはぐれちゃったの?』
名前は男の子の目線と合わせるように、しゃがみ込み、優しく尋ねる。
「…うん。」
今にも泣きそうな表情に、名前は思わずハグをした。
『大丈夫よ。私と一緒に探しましょう』
よしよしと男の子を宥め、手を繋ぎ、ポートロイヤルの沢山の人混みの中、男の子の母親を探す事にした。
『ママはどこに行くか知ってるのかしら?』
「港の方に行くって言ってた…」
『それでは港に行ってみましょうか。きっとママは見つかるから大丈夫よ』
2人は港へと足を進めた。
名前は少し緊張している男の子のため、話してみる事にした。
『ぼく、何歳なの?』
「僕、ラシュリー!お姉ちゃんはなんていうお名前なの?」
『私は名前よ。…ふふっ、お姉ちゃんだなんて』
「名前!すっごい美人だね!!」
いきなりの男の子からの褒め言葉に、思わず笑みがこぼれる。
『あら、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ』
「ぼく、お姉ちゃんと結婚する!!!」
ニコニコとしながらなかなかな発言をしてくるラシュリー君(8歳)
『(最近の子どもは大胆ね…)』
ラシュリー君は子供ながらにはっきりとした顔立ちに、パッチリとした大きな瞳、金色の髪。間違いなく将来は美少年になるだろう。
『(いいかもね…っていやいや!!!)』
一瞬将来を考えてしまった名前は、ハッと我に帰ったのだった。
────────────
『着いたわ…いつ来ても人通りがすごいのね』
商人や船乗り、海軍の者まで沢山の人が行き交う。さすがポートロイヤルだ。
『さて…ママはどこかしら』
キョロキョロと辺りを見渡しても、人混みでそれらしき人は見当たらない。
すると────────────
「名前!!!如何してこんなところに!!」
海軍の制服を着た男性──────
ノリントンが現れた。
『ジェームズ!』
ノリントンは名前に逢え、いつもの固い表情からパッと明るくなった。
と同時に名前と手を繋いでいる子どもを見て固まり、表情はいつもよりも固くなった。
「この子どもは…?ま、まさか…君の…」
『違うわよ。この子、街で母親とはぐれちゃって迷子だったの。だから母親を探しているところよ』
「なんだ…よかった。てっきり君の子どもかと思ってしまった」
安堵するノリントン。
すると
「ぼく、お姉ちゃんと結婚するんだ!!いいでしょう!」
2人が話しているのがいけ好かないのか、男の子は名前に抱き着き、さっきと同じ爆弾発言をした。
目線はノリントンをがっちり捉えている。
しかもニヤリとした表情付きで。
まさに勝ったというような表情だ。
「何を言っているんだ…」
『さっきも言っていたのよ。かわいいわね』
名前が微笑んでいるのをよそに、ノリントンはそれを真面目に捉えてしまっている。
「それは無理な話だな…」
「無理じゃないもん!!」
「(まだまだ子どもだ)…まず第1に、私と名前は付き合っているのだ。わかるかな?その次に、君は結婚できる年ではない」
子どもだと思いながらも、子どもを相手に本気で語っているノリントン。
「付き合ってるからって結婚できるわけないじゃん!!」
「『(なかなかのツワモノだ/わ』」
大人2人は思わぬ言葉に、ベケットと同じ分類だと直感で感じた。
「…ふぁ、うぁ〜ん!!」
ノリントンに怖気づいたのか、男の子は泣き出してしまった。
『ジェームズ、相手はまだ幼い子どもよ…』
そう言い、名前は男の子をあやすように抱きかかえた。
すると抱きかかえた男の子は、名前からは見えない様に、ノリントンを見て、ニヤリと笑った。
「(子どものくせに…)」
さすがは海軍の提督。
感情を表に出さない。
…いや、思いっきりドス黒いオーラが周りに漂っている。
そんなノリントンは気にせず、名前は母親探しを続けていると──────
「ラシュリー!!!!」
「ママ!!!!!」
男の子を呼ぶ女の人の声がした。
と同時に男の子はその女の人の元へと駆け寄って行った。
「どこ行ってたの。ちゃんと待ってなさいって言ったのに」
「ごめんなさいママ。このお姉ちゃんが一緒に居てくれたから大丈夫だったよ!!」
「私も途中から居たのだがな…」
まだドス黒いオーラが消えて居ないノリントンの足をヒールで軽く踏む名前。
「ありがとうございます!!!!本当に助かりました!!!」
男の子のお母さんはたくさんお礼を言った。
「お礼といってもなんですが…この苗木をどうぞ。すごく綺麗なんですの」
そういって渡された淡いピンクの花の苗木。
『わぁ…素敵…こんなもの頂いてもよろしいのですか?』
「どうぞどうぞ。貴方に助けてもらったから」
『ありがとうございます』
名前は満面の笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん、あと君!!今日はありがとう」
『こちらこそありがとう。貴方に会えて楽しかったわ』
「君とはなんだ…」
「お姉ちゃん!!いつか結婚しようね!!」
またまた爆弾発言をした男の子。
「その時までに私は名前と結婚している」
『ふふっ、そうだといいわね…』
小さく呟いた名前の言葉に、ノリントンは思わず顔を赤らめた。
少しばかり、男の子に感謝したノリントンであった──────