『(ヤバイヤバイヤバイ・・・・・・)』
名前はかなりピンチな状況に追いやられていた。
『ねぇジェームズ…貴方らしく無いわ』
「私が好きな女性とほかの男が仲良くしている姿を黙って見ていれると思っていたのか?」
あまりの迫力に名前は思わずたじろいだ。
何故私がノリントンにベッドの上で覆い被さられていると思う?
事の発端は今日の昼頃───────
名前はいつもと変わらず、自分の屋敷で優雅なティータイムを過ごしていた。
クリスタルで作られたカップを開けると、彼女は慣れた手つきで角砂糖を一つ二つ取り、ちゃぽんとティーカップに入れ、くるくるとスプーンでかき混ぜる。
紅茶の芳醇な香りが漂い、名前は笑顔になる。
『んん!この茶葉どこのかしら。香りも良くて、味もすごく濃厚で美味しいわ』
ゴールドとローズピンクで装飾された可憐なティーカップとティーポットは、彼女にぴったりだった。
名前がそんなティータイムを過ごしていると、ガチャリと大きな両開きのドアが開き、上品なローブを身に纏った1人の男が入ってきた。
「名前、ティータイムをしていたのかね。是非私もご一緒しようじゃないか」
そう、このいかにも値の張りそうなベルベットで仕立てられた、ボルドーのローブを身に纏った男は、世界各地に拠点を構える東インド貿易会社のトップ、カトラー・ベケットだった。
『あらカトラー、来ていたのね。良い茶葉があったのよ。飲んでみて』
さっきと同じように慣れた手つきで、ベケットに紅茶を注いだ。
「…美味しい。かなり上質な茶葉だな。名前の淹れ方も上手だからだろう」
名前は思わず微笑んだ。
カップを置くと、ベケットは名前の座っているソファーの隣へと移動する。
行気品溢れる上流階級だという事が、行動だけでさえも伺える。
ベケットは熱っぽい視線で名前を見つめる。
それに気付いたのか名前は、ドレスの先をフワリとさせ、足を組み直した。
「最近、君のことばかり考えてしまうのだ…」
ベケットは名前の膝に片手を置き、低い響きのある声で耳元で話す。
『どうしたのよ急に…』
ベケットのいきなりの言動に名前は戸惑う。
「君を私の側に置きたいのだ…愛しくて愛しくてたまらない」
『っ、ダメよ、私はジェームズと』
迫り来るベケットの腕を振り払い、逃げようとするがさすが男性の力。なかなかそうはいかない。
「なぜ抵抗するのだ…私に身を任せれば良いものを…」
ベケットは名前の両腕を掴み、顔の上に上げ、口付けようとする。
すると──────────────
ガチャリ!!!───────
「どういう事ですかベケット卿」
海軍の制服を身に包んだ男、ジェームズ・ノリントンが乱暴にドアを開け入って来た。
「おやおや、これはノリントン提督。お取り込み中だという事が分からないかね?」
話しているベケットを隙に、名前は腕を振り払い、ノリントンに抱き締められた。
「大丈夫か?何もされてないか?」
ノリントンが名前の頬に手を当て、心配する。
「名前…強引すぎたな…私が悪かった。もう心配することは無い、私の元へ戻っておいで」
ベケットは少し動揺したが、すぐに取り直しこちらに来るようにと手を広げた。
『嫌よ、私を大切にしてくれるのは嬉しいわ。けど』
「名前は私の恋人です。私が彼女を守るので心配は結構だ」
ノリントンは名前の前に立ち、ベケットから見えないように遮る。
「ほぉ…まるでナイトのつもりか…まあ良い。必ず名前を手に入れてみせよう」
そう言うと、飲みかけのティーカップを一気に飲み干した。
ノリントンは名前を抱き上げ、部屋を後にした。
抱き上げられた名前は、まるで何かを企んでいるかのような笑みを浮かべたベケットと目が合い、少し背筋が凍った気持ちになるのだった。
名前を抱えたまま広い廊下を歩くノリントンの表情は、いつもよりも固い。
それを見て心配した名前は、戸惑いながらノリントンに話す。
『…ジェームズ、私何もされてないから心配無いわよ』
「もし私があの場に行かなかったら君は間違い無くベケットに...」
そう話すと少し歩く速度が早くなった。
部屋に着くと、ふかふかのキングサイズのベッドに降ろされる。
と同時に、激しく唇を貪られた。
長く蕩けるような濃厚なキスに、名前の頬はだんだんと紅潮する。
キスが終わって息を切らし、呼吸を整える姿でさえもなんとも艶かしい。
呼吸をする毎にベッドの上に広がった上品に巻かれた髪が波打つ。
『ねぇジェームズ…貴方らしく無いわ』
「私が好きな女性とほかの男が仲良くしている姿を黙って見ていれると思っていたのか?」
そう真剣な口調で話したノリントンの表情は、眉の皺が深くなる。
『…私は貴方だけを愛しているわ。この先何があっても、ジェームズだけを』
名前はノリントンの頬を優しく撫で、愛しいもののようにに見つめる。
ストレートに言われ、ノリントンの強張っていた表情が一気に柔らかくなり、まんざらでは無いのか少し頬に紅が差した。
名前に跨ったまま2人はそのままベッドで深い愛を確かめ合ったのだった───────