(……なんでだろう。)
なんだか、胸が潰れそうに痛かった。
あの子は立派に戦っていた。わたしよりも幼いのに。いつかいつかにわたしが次元を隔てて、ただのキャラクターとしか認識してなかったときから、あの子は戦っていたんだ。
(なさけない、)
と思う。
だってわたしはおねーちゃんだから。二度目なのだから。だから、一度きりなひとを優先すべきだ。
(おかしなことを言っている。とは、わかっているけど。それでも。)
それでも、やめられない。いまさら止まれない。
泣いても笑っても、怒っても。憎んでも。
(わたしは、鬼殺の剣士だ。)
そうだ。
だから。
だから──
(そんなかお、しなくていいのに……)
暗闇が迫ってくるなかで、あの子たちのかおばかりが見えていた。ずっと。ずっと。
鬼の笑い声が、泣き声が、喚声が。なんだか、聴こえた気がした。
がらんごろんと喧しく鳴る鐘の音が、ぐわんぐわんと頭に響く。がらんごろん、がらんごろん、がらんごろん、がららん、ごろろん、
四方が闇に包まれているのに、きっとあの鬼の血鬼術の中なのに、どうしようもなく耐えられない。音が、音が音が音が音が音が音が音が!
(ああ、耐え
絶え
れ
耐えら
ら
かね
が
す
ぐ
そ
こ に
しん。
「耐えろ。」
ぱちり。
(……知らない天井だ。)
周辺を把握しようと、もそもそと身動きをして。
ずきっ。
「痛っ」
(……あ。)
ここ、蝶屋敷か。もしかして。
*
何はともあれ目覚めたのだから、ひとを呼ばなければいけない。しかし、
「あ、あー」
声自体は出るものの掠れているし、怪我もあって喋るのはすこし無理そうだった。何より、ただ呼吸をしているだけで、怪我がじくじくと熱をもって痛む。要するにキツいのだ、すべてが。
(いけない。集中、集中……)
かつて師匠に教わったように、シィィィと息をゆっくりと吸って、吐く。回復の呼吸。いちばんはじめに私が覚えた呼吸法。ある意味独学だから、未だにすこし癖があったりする。それで、当時はよく師匠に指導されたものだ。
(回復といえば……そう、)
蝶屋敷。
そのワードが否応なしに様々なことを思い出させていく。花柱さまのこと。あの方に習った花の呼吸のこと。それをあのことがあってから言い出せず、誰も、そう、あの方以外に誰も知らないということ。それから、それから、
(……蟲柱さま)
『私だって万能ではないのですから、あまり大きな怪我をしないでくださいね?』
そう言っていた蟲柱さまの、にこにことある時から浮かべるようになった素敵な笑顔を思い出して、おもわず必要以上に大きく息を吐きそうになる。
なんたって、そう言われてまだたったの一月なのだ。
(これ、絶対よくなったらチクチク言われるやつだなあ……)
たしかに自業自得であるので甘んじて受け入れるつもりではあるが、憂鬱に感じるのはどうしようもない。